第3話 大親友のゴドウィン編 ②
「え? どなたでしょうか」
「貴様。俺の部下の金を持っているな」
「え? 知りませんよ。何の話ですか」
声を取り繕って、顔面は興味ありませんよの顔で固定する。
実際は、そちらのお金の行方を知っているわけでありますので、内心は相当焦っています。
「貴様にマーキングが入っているんだ」
「マーキング? 何の話でしょうか?」
「すっとぼけても無駄だ。こいつの顔。見覚えあるだろ」
偉そうな男性の後ろにいるのが、俺が金を盗んだ男だった。
当然見覚えがあります。
「こいつの顔を知っているよな!」
目の前のいかつい顔の人が、念を押してきた。
後ろの人を強調してくる。
「そんな人、知りませんよ」
嘘です。名前まで知っています。
ノービス・ダイジャリングさんです!
俺の心の中は、彼の名で一杯だった。
「こいつ、自分の金にマーキングを入れているんだよ」
「マーキングって何ですか?」
本当は知っているけど素朴に聞いて、話を伸ばす。
相手の話の隙に、会話を組み立てるのだ。
ここはごまかす。
なんとしても、ごまかすしかない。
俺は盗賊なのだから、相手の心も盗めるはずだ。
という謎理論で、会話を進める。
「こいつのタレントスキルだ」
「タレントスキル。それは大層珍しいものをお持ちで」
タレントスキル。
これはジョブスキルとは別の存在で、個々人が持っている特殊スキルと呼ばれるもの。
生まれた時から持っている先天性の物から。たゆまぬ努力により開花した後天性の物まで、様々なスキルがこの世には存在している。
タレントスキルは独特なものが多いし、成長や覚醒と言った進化する可能性もある。
人が成長する生き物だから、スキルも成長するらしい。
そして、その中でマーキングとは、たしか。
物にセットすると、そのものを追いかける事が出来るってスキルだ。
モンスターや人間相手だと、触れたら勝ちだった気がする。
目での視認だけではマーキングは出来なかったはず。
と言う事は、今回はノービスさんは自分のお金にスキルセットしていたのか。
しまった。
不用心にお金を盗まなきゃよかった。
たしかにタレントの欄が―――これになってたからな。
ちゃんと見抜けていなかったのに、俺が無茶をしてしまった。
失敗だった。
「反応がお前にある。金を返せ」
「え? いやいや、何の話で?」
「だから金を返せ」
言い逃れタイムを発動させる。
とにかく何か、会話に引っかかりがあれば、騙せそうである。
「あのさ。さっきから何の話してんの。金を返せって・・・ク~ちゃん。何。この人から金でも借りたのか」
ゴっちゃんは見当違いの事を言っていた。
「いや・・・俺はさ」
説明しようとすると、ノービスさんが俺を指差した。
「こいつが俺の金を盗んだんだ」
「え?」
ゴっちゃんは俺を見る。
「ク~ちゃんが、理由もなくそんなことするわけない。盗みなんて何かの間違いだろ。それともあんたら、なんかの怪しい奴らか?」
ぐはっ。
めちゃくちゃ俺を信じてくれているのが心痛い。
ゴっちゃんは、曇りなき眼でノービスさんを見ていた。
盗賊の盗賊をしてましたよ。
なんて言える雰囲気じゃない。
ちなみにこの人は、盗賊じゃなくてアサシンだけどね。
職業的には、もっと悪かったわ。
「俺の金を持っているんだよ。というかお前・・・人か?」
「は? 俺は人に決まってるだろ」
「全然見えん。人語を話す獣にしかな」
ノービスさんの言う通りです。
ゴっちゃんの顔、ほとんど見えませんからね。
両目しか見えませんから、見た目で言えば、もじゃもじゃなイエティグルというモンスターに似ています。
人間みたいな姿だけど、全身が毛むくじゃらなモンスターで、結構強いBランクであったはずだ。
でも今のゴっちゃんならば、そのモンスターも瞬殺だろう。
レベル8以上だったら余裕で粉砕できる。
ここで、ノービスさんも相手のイカツイ人もゴっちゃんも、会話がゴっちゃん中心になったことで、俺への視線が外れた。
ここがチャンスだと思った俺は、必殺の盗むを発動させた。
俺の盗むは、俺からも盗める。
意味が分からないかもしれないが、俺から盗むと元の位置に戻すという技になるらしい。
半径100メートルくらいなら戻せるのだ。
使いようによっては便利すぎるである。
でも、これは俺だけの技なのか?
盗賊にこのような効果の盗むがあるのかは、他に盗賊に出会えたことがないので、情報交換が出来ていない部分だ。
「ほら、俺。金持っていないですよ」
全部お返ししてから堂々と返事を返す。
「白々しい嘘をつくな。貴様が盗んだんだ」
「いいえ。あなたの見間違いか。勘違いじゃないですか? 俺の懐にお金なんてないですからね。よく見てくださいよ。このみすぼらしい格好。どっからどう見ても物乞いでしょう」
俺は自分のボロボロの服を見せる。
継ぎ接ぎだらけの服装はどこからどう見ても物乞いに見える。
これは俺が自分で自作した服なのだ。俺の裁縫テクって、そんじょそこらの物じゃないぞ。
あの時で換算すると、俺のレベル2ステータスへのレベルアップ時には、器用さがマックスだったからな。
この人たちもその手先の器用さで騙せるはずだ。
「貴様・・・」
「あ、兄貴」
「ん? どうした」
ノービスさんの顔が青白くなっていた。
「俺の金が、ここにあります」
「なに!?」
「マーキングが俺に入っているし。それに金額が元のものに戻っている!?」
「なんだと」
二人が混乱している隙がチャンス!
「ほらほら。俺への言いがかりだったでしょ。どうしてくれるんですか。俺のガラスのハートが傷つきましたよ。ちょっとしたひび割れじゃすまないですよ。今この地面辺りにバリバリに砕け散ってますよ。ほら、ちょっとでも動いたら踏んじゃいますからね。ああ、イタイイタイ!」
「貴様。何かしたな」
「俺が? いつ? どこで? どうやって? 証拠は???」
怒涛の口撃だ。とにかく手数で押しまくれ俺!!!
「い、いまだ! 何かしたな」
「だから、何が出来るってんだ。あんたらと話してるだけだぞ」
こういう土壇場の時の俺って、人見知り発動しねえのな。
なんて考える余裕が出てきた。
なぜなら、ノービスさんの兄貴が、焦り始めている。
顔の汗がチラホラと輝いていた。
「ふざけるな。貴様ぁ」
ノービスさんの兄貴が、俺の胸ぐらを掴んできた。
殴る一歩手前にまで来たところで、隣の人物がブチ切れた。
「てめえ。ク~ちゃんに何しようとしてんだ?」
「お前は引っ込んでろ。関係ねえ」
「なんだと。俺は関係ある」
「は? その現場にお前はいなかったんだろ。だったら関係ないわ」
この言葉の勢いのままに、ノービスさんの兄貴は俺の顔面を狙って攻撃してきた。
右手が俺の顔面の手前に来た所で、ブチ切れている人物は更にブチ切れる。
「おい・・・屑男。俺の親友に何をする」
俺の隣に立ったゴっちゃんは、右手で軽々とノービスさんの兄貴の拳をキャッチした。
「な!? 俺の拳をだと、俺はレベル6だぞ」
6なんだ。すげえ。
という感想が、俺の喉まで出て来そうだったが、こっちの人が8以上だから、雑魚に見えてしまう。
ごめんなさい。
ノービスさんの兄貴。
つうか俺、スキルを発動させた方がいいか。
どれ・・・。
と自分のスキルを発動させて、この人の名前でも確認しようかと思ったその時。
「俺の一番堪えられない事をした。てめえだけは許さねえ」
「な、なんだと?」
「俺が一番やられて嫌な事は、仲間を侮辱されることだ。ゴっちゃんがてめえらの金なんて盗むわけがねえだろ。ここから消えろ! はああああああああああああ」
ゴっちゃんの体が真っ白のオーラに包まれた。
「白仙蹴」
白色の蹴りが、ノービスさんの兄貴の腹に刺さった。
お腹にめり込んでいく蹴りを見て、威力がヤバいんだろうと軽く想像できる。
あばらの骨がきしむ音が聞こえた直後に、ノービスさんの兄貴はお空の星になった。
「許さねえぞ。二度とその面、ク~ちゃんに見せんな。おっさん!」
「あ、兄貴ぃいいいいいい!」
ノービスさんは、兄貴を追いかけてこの場から立ち去っていった。
ゴっちゃんは俺の為に敵を倒してくれた。
でも、俺的には、ノービスさんの兄貴に申し訳ないと思って、この事件を成仏させたのだった。
なにせ、きっかけは俺の盗むのせいである。
でも元々あなたたちも盗賊ギルドだってことで、おあいこの事件だと処理して欲しいものですね。
あと、ノービスさんの兄貴の名前、調べておけばよかったという後悔だけが残った事件だった。