第18話 もう一度みんなで!
「よし。いくぞ。ゴっちゃん。俺を投げる体勢になってくれ」
「わかった。俺の右手に乗ってくれ」
「うん」
俺はゴっちゃんの右手に乗った。
なんだか巨大な手に包まれた感じがしたのだが、よくよく見ると、ゴっちゃんの体から溢れるオーラが俺を包んでいた。
「次。アイちゃん。魔法の準備を頼む。さっき言った位置に魔法を当ててくれ」
「うん。やってみる」
アイちゃんは再び魔法を準備。
敵を貫く光の矢を弓にセットし始めた。
「マー君! 敵を崩してくれ。アイちゃんの光の矢を、当てるためにだ!」
俺が大声で指示を出すと、マー君は了承した。
「まかせろ」
マー君が敵との撃ち合いに入る。
◇
マー君の戦いは、変化した。
それは敵の行動が連撃中心になったために、盾を主体にした攻防に切り替えたからだ。
マー君の盾が、敵の爪を弾く。そこから普段なら反撃。
しかし、それは相手の連撃の方が速いために、中断。
また盾で防ぐの連続で、マー君が防戦一方になった。
「まずいか。でも加勢は駄目だ。ゴっちゃんは俺に集中して欲しいからな・・・」
「クス! あたしにまかせろ」
「ん?」
「ブイ!」
ピースサインをしてきたシリちゃんには、何か秘策があるらしい。
神聖魔法の準備をし始めた。
「マー。バフをかける。一瞬だけ爆発させっぞ」
「了解」
シリちゃんの補助魔法は、バフ系。
アイちゃんの補助魔法は、デバフ系。
この二人は、同じ魔法を取得していない様子だった。
「今日から強化」
マー君の体が一瞬浮いたように見えた。
それくらい体が軽くなったのかもしれない。
「ク~ちゃん。いくぞ。チャンスを逃さないでくれ」
「おう」
マー君が飛ぶ。
敵よりも高くなると、アイテムボックスから武器を出しまくった。
「ハンマー!」
敵の右からの攻撃にハンマー。
叩き潰して、ウルフの右拳を粉々に粉砕。
「大剣!」
敵の左からの攻撃に大剣。
ウルフの左拳を切り裂いて、相手の攻撃を無効化。
「大槍!!」
巨大な槍を敵の足に投げた。
左足を拘束。敵は身動きが出来なくなった。
「大斧!!!」
最後にマー君は、大斧を敵の顔面に叩きつける。
破壊と裂傷のコンビで大ダメージを与えた。
「ここだ、いけ!」
「うん。シュート!」
俺の指示にアイちゃんが魔法を叩き込み、前に出した魔法攻撃を縮小させて、ピンポイントで敵の腹を貫いた。
肉の割れ目から黒い水晶玉が見える。
「ゴっちゃん。見えた。あそこにコアがあるわ。今投げてくれ」
「了解。いくぞぉ。ク~ちゃん! おりゃああああああああ。ク~ちゃん爆弾だ!」
「え? どういうこと?」
ゴっちゃんの振り被りから、俺が射出された。
「どわ・・・おおおおおお・・・しぬうううううう」
思った以上の空気抵抗で、肺に呼吸が届かない。
口から息を吐き出せないのだ。
敵に攻撃する前に、窒息しそうです。
「やややや・・・べべべべ・・・でも」
俺が敵の懐に到達する瞬間。俺は右手を伸ばした。
敵のコアに右手が触れると同時に。
「盗む!」
俺の盗むが発動したはずだった。
だが、水晶玉が移行されない。
触れていても盗めない。
これは俺の見積もりが甘かったらしい。
敵とのレベル差でこれは起きているのかもしれない。
俺が場違いだったんだ。
やっぱりお荷物には、無理な事だったんだ。
「ぐおおおお」
敵の肉体が回復し始めた。
手足。顔。コアから離れた位置が回復していく。
「だ・・駄目か・・・俺じゃ・・・無理かよ」
俺が諦めかけたその時。
「「「「ク~ちゃん!」」」」
四人の声が聞こえた。
「諦めんな!」
ゴっちゃんの声援。
「できるもん。ク~ちゃんなら出来るもん」
アイちゃんの応援。
「とっとと終わらせろよ・・・・ク~ちゃんならやれる」
シリちゃんの両方の励まし。
「勝利・・・待ってる」
マー君の信じているとの声。
こんなにも俺の親友が、俺を信じているのに。
俺が俺を信じないなんて、やっぱり俺は馬鹿だ。
ここから俺は頑張るって言ったばかりなのにさ。
一度無理だったからって。
簡単に諦めそうになるなんて、やっぱり俺は、大馬鹿野郎の根性なしだわ。
いくぜ。
「はああああああああああああああ」
盗む。絶対に盗んでみせる。
「君を盗む」
俺のスキルが発動した瞬間、轟音が鳴った気がした。
右手に何かの感触が伝わり、俺はゴっちゃんに投げられた勢いのまま、飛んでいった。
「うわあああ、止まる事・・・考えてなかったわ。ぐあ。ご・・・ごはっ」
森の木々が俺の背中にぶつかっていった。
いったい、俺の背中は果たして無事なのでしょうか。
てな具合に、木に叩きつけられて、ようやく止まったのだ。
「ぐっ・・・て、敵は・・・どうなったんだ」
衝撃の痛みに顔を伏せてから、敵を確認するために顔を上げる。
そしたら四人が目の前にいた。
「おい。見えねえわ。敵は・・・お前らしか見えねえ」
「ク~ちゃん。その必要ないぞ!」
ゴっちゃんが言った。
「え? なんで」
「うん。あれ!」
アイちゃんが指差した。
「あ? 敵が・・・」
塵となって消えていくところだった。
「ク~ちゃん、お見事」
「ははは。マー君のおかげさ。敵に手足なかったからね」
マー君が笑った。
「ク~ちゃん。凄い凄い。偉いね」
「ぐはっ。いてえ」
デレモードシリちゃんが俺に抱き着いた。
全身痛いのに、ますます痛くなる。
「離れて・・・え!?」
シリちゃんがいいなら、俺たちもと。
そんな感じで皆が俺に飛びついて来た。
「待て待て。俺はけが人だって・・・うわああああ」
俺は、敵よりも大好きな幼馴染に殺されかけたのだった。
◇
勝利の後。
「勝ったんだな・・・奇跡だな」
俺は、自分の手にある水晶玉を見て言った。
「ああ。やっぱさ。ク~ちゃんってさすがだぜ」
「そうだね。うちの魔法で手伝えてよかったぁ」
「おいどんも敵の体勢を崩せてよかった」
「そうだ。あたし。回復させるよ。不完全だったからね」
シリちゃんが神聖魔法で俺を回復させている最中。
「あのさ。これなんだろな。見たことない玉だわ。禍々しいよな」
紫がベースで、斑模様の黒が混じる。
綺麗な透明な青なら、美しい水晶玉だろうに。
「魔物のコアにしては、綺麗だな・・・普通コアって歪なもんなんだがな」
モンスターのコアは、形がランダム。
丸だとしてもちょっと楕円になっていたり。
四角だとしても台形になっていたり。
不自然な形になってしまうものなのに、このコアっぽいものは、真円である。
「美しすぎるな・・・まるで、人の手が加わっているみたいだな。何だろう。嫌な感じがする。人の悪意があるような・・・」
誰かが仕掛けたものなのか。
俺はそんな風に感じた。
「まあ、そんな事よりさ。俺たち。一緒にやれるんだろ」
「そうだ! それそれ! うちらは一緒に冒険者をやれるんだよね」
明るい二人はこの玉よりも、これからの冒険が気になる。
「そうだな。俺も一緒にやろうかな。いち冒険者としてさ」
「ん? ク~ちゃん」
「ん? どしたのマー君?」
「何を言っているんだ。ク~ちゃんが、おいどんたちのリーダーだぞ。いち冒険者なわけがない」
マー君は突拍子もない事を言った。
「そうだそうだ。ね。ゴっちゃん」
「ああ。俺たちのリーダーはお前に決まっている」
ノリノリな二人が俺を指名してきた。
「は!? いや、どう見てもこれ。俺が雑魚だろ。マー君でいいじゃん。最強の冒険者になるんだから!」
「チッチッチ。甘い甘い。あたしらはさ、最強の冒険者たちになるんじゃない。『最強の!』冒険者パーティーになるんだよ。だから、そのために、ク~ちゃんが必要なんだ」
自信満々にシリちゃんが言って来た。
ニヤニヤ笑っていて、なんだか腹が立つ。
「それで、俺がリーダーだと、最強の冒険者パーティーになれると?」
「「「「うん!!!」」」」
「なんで、自信満々に言えるのかな。君たち」
「「「「だって、ク~ちゃんだもん」」」」
皆の息が合っていた。
「答えになってねぇえええええええええええええええええ」
なんだよ。
俺がリーダーだと最強になる。
俺の頭の引き出しから、歴代冒険者パーティーの最強格を並べてみても。
どこにリーダーが盗賊のパーティーがいるんだよ。
勇者とか。賢者とか。それこそ、仙人とかさ。
もっと凄い役職の人が、リーダーになるものなのよ。
なんで、盗賊がなっちゃうの。
それって、あれか。
盗賊ギルドにでもしようって魂胆か。
悪の組織にでもなろうって話なのか。
俺の疑問は尽きなかった。
「とにかく、俺たちは、ク~ちゃんがいれば最強だ。マー君。シリちゃん。アイちゃん。これからは一緒だぜ。ク~ちゃんをリーダーに俺たちは再出発だ。いくぞ」
「「「おおおおおお」」」
と俺の了承もなく、俺がリーダーとなり、俺たちは冒険者パーティーの最強への道を進む。
冒険者パーティー陽気な我らはもう一度
この名が世界に轟くまで、時間が掛かる事はない。
俺たちは、仲良し最強冒険者パーティーになるからだった。
「じゃあとりあえず。リーダー命令で最初の愚痴を聞け! 仲間たちよ! なんで俺がリーダーなんだぁああああああああ」
再出発の門出は、俺の嘆きの叫びである。
ここで第一章が終わります。
ここから色々あって、最強のファミリーになりますが。
現在仕上げている小説もありますので、ここらで切り上げます。
楽しいお話を基準に考えていましたので、全部が明るめの設定になっています。
キャラも、お話の運びもですね。
読者の皆様が、このお話で楽しんでもらえていたら嬉しいです。
作者的には主人公の振り回され加減が好きです。
それと最強のパーティーなのに、最弱がリーダーなのが好きです。
でも局所的には強いので、これからのお話の活躍は、意外と戦い以外になったりします。
この先も考えてはありますが、続けるかは悩み中で、気が向いたら書くかもしれません。
では、色々書きましたが、またの小説でお会いしましょう。
現在書いているものと準備しているもの。
それとまだ書こうとしているものがあるので、そちらに集中していきたいと思ってます。
それでは、読んで頂きありがとうございました。