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第15話 盗賊クスネルのスキルやステータスに頼らない地力

 結界の北側。 


 「みんな。ここからはおそらく・・・俺の勘で進むけどいいか?」

 「勘?」

 「ああ。敵の位置を掴みたいんだけど、たぶん正確に掴めないと思うんだ。誰かさ。気配察知。結界。どっちか出来そうか? この禍々しい感じがあってもさ」


 どす黒い。

 何かが蠢いている森。

 雰囲気が怪しさマックス状態なんだ。

 なんて説明したらいいか分からないけど、俺の勘がずっと危険だと囁いている。

 いわば、弱者の勘がとんでもない敵の強さを感知しているんだ。

 こいつ強すぎるぞってさ。

 だから、並大抵の魔法やスキルがこの現場で刺さるとは思えない。

 超強烈な物じゃないといけない気がする。

 

 「わからないな。ク~ちゃん。俺がやってみた方がいいのかな」

 「うちもわかんない。外に出てみないと」

 「ああ。だよな。ここで心配してもしょうがないよな。だから、俺たちがこの森を進むときに、俺の勘になったらごめんよってことだ」

 「「「「大丈夫。信じてる」」」」


 四人が即答して答えてくれた。

 本当に、なんでここまで俺のことを信じてくれるか知らないけど。

 ここでは助かる。余計な説明をしなくていいからだ。


 「よし。やろうか。俺、戦えないと思うけど。守らなくていいからな。お前たちは自分自身を大切にしてくれ」

 「え?」

 「わかった」


 シリちゃんは驚き、マー君は頷いた。


 「な、何言ってんだよ。あたしが守るよ。ク~ちゃんはあたしのそばにいてよ」

 「いらない。シリちゃん。いや皆。覚えておいて欲しい。いいかい。ここは自分のことは自分でやるんだ。それがここで一番重要だ。この中で、四人の内一人でも消えたらパーティーとして死ぬ。いいか。俺を守らない事が全員を守る形になる。何度でも言うけど、皆の内で一人でも欠けたら、総崩れになるのは目に見えて分かることだ。いいか。これを胸に刻んでくれ。俺が死んでも総崩れなんてならないけど。でも皆の内で一人でも死んだら、五人が全滅。そんな戦いだと覚悟してくれ」


 俺の言葉を真の意味で理解しているのは、マー君だけだった。


 「わかった。でもおいどんが注目を引き受ける。ク~ちゃんは、分析を頼む。おいどん。強敵との戦いだと、そこまで頭が回らないかもしれない」

 「うん! おっけ。それを最初から言おうと思ってたんだ」

 「おいどんは、ク~ちゃんの盾だ。おいどんは、命も全部、ク~ちゃんに預ける」

 「ありがとう。任せてくれ。弱点とか見つけるからさ」

 「うん」


 マー君はやっぱり超一流の冒険者なのだ。

 俺のしたい事を理解していて、それにこのパーティーの中でどうやって動けばいいのかまで理解しているのだ。

 現役で最強の冒険者に近いのは、俺はマー君だと思っている。

 いや、マー君が、伝説の冒険者になる男なんだ。

 俺は出会った時から、そう確信している。


 「やるぞ。すすむ!」


 一番の弱者から、この戦いは始まった。


 これが、俺たちのジュゴン大森林戦と呼ばれる再出発の冒険だった。

 


 ◇


 結界の外。

 禍々しい気配は、外に出るとより伝わる。

 肌がかさつくみたいになんか痛い感覚になった。


 「んんん。敵が強いのか・・・」


 俺が悩んでいると。


 「無理だな。方向がおかしい」

 「ゴっちゃん?」

 「気配察知をしても、大小が掴めないや。無数の敵がいるしか、俺には分からない」

 「そうか。ゴっちゃんの感覚が狂わされているんだな。相手のスキルかな? どうだろうか」


 さらに俺が悩んでいると。


 「無理。うちの結界・・・弾かれる」

 「それも無理か。やっぱり、俺の考え通りか。ここから考えられるのは、アンチ系が発動しているのかもしれない。それ程高度な力を持つモンスター・・・・ランクSSS以上かもしれないな。こりゃ、やべえ」


 冒険者ランクSSSクラスのクエスト。

 それは、このメンバーだとギリギリである事が示唆される。

 EXランクが最高ランクで、これはギルドのクエストボードには載らない究極のクエスト。

 特殊クエストに入るわけだが、SSSクラスってのは、ギルド会館に普通に存在する。

 そして、そのレベルだと仮定すると、レベル8以上の八人パーティーでやっとだと思う。


 それだと、この四人が、この任務をすると、ギリギリな感覚だと思った方がいいだろう。


 「でもやるしかない。まずは」


 俺は、森の匂いを嗅ぐために鼻を使った。

 冒険者ってのは、スキルとか。魔法とかに頼るのも大切だけど、それよりも重要な事があると思う。

 それが、元々持っている人の五感だ。

 実際の人間の力が俺は重要だと思う。

 匂い。あとは、目。それに音。そして肌。

 これらの感覚を上手に使う事で、相手を割り出すことだって出来るはずなんだ。

 だって冒険者なんて本来そうやって索敵などをして、モンスターとかを狩ると思うんだ。

 あのラーズロー・ギスダルの著書にだって、冒険の方法が書いてあるくらいなんだ。

 誰にだって出来る事があるはずなんだ。

 それに、彼はスキルだけじゃなくて、自分の五感でも世界を踏破したはず。

 元々持つ力を補強するのがスキル。

 それが本来のスキルの在り方だと俺は本を読んで思っていた事だ。


 なのに、最近はスキルとか魔法が便利になりすぎて、そっちに力が入っているから土壇場になった時に封じられたら困るんだろう。

 たぶん、最近レベル10の冒険者が出て来ないのは、これが影響しているじゃないかと俺は推察していた。

 冒険者は人として、強くないといけない。

 それは単純な強さじゃなくて、生きる力だと俺は考えていた。


 「ここだな。ここから、右。角度35度をいこう」

 「なんで?」


 アイちゃんが聞いてきた。


 「この足跡を見てくれ」


 俺が自分の足元にある足跡を指差すと、四人が俺のそばにやってきた。


 「この角度と、この角度が。正面と、左だ。こっちからしょっちゅう敵がこの結界にまで来ている」


 足跡の角度に応じて、どこから来たかを推察する。

 敵の配置から考えると、来た角度はこの二方向だろう。


 「これで、右を選択すれば敵が少なくて済む。出来るだけ出会わないようにしていきたい」

 「なんでだ? 戦えばいいじゃん」


 ゴっちゃんが聞いてきた。


 「駄目だ。ボスがどこまで強いのか。それがわからないから、ここは慎重にだ。敵とは遭遇しないで、皆の体力は出来るだけ温存しておきたい」

 「あたしもさ。賛成だな。無理をしちゃいけない気がする」

 「でも雑魚だぞ」

 「うちが、やればいいんじゃない」

 

 意見は人それぞれ、どれも間違いじゃないけど。

 ここは俺の意見に従ってほしい。


 「駄目だ。特に今回はアイちゃん」

 「うん」

 「君が切り札だ。だからボスまでの戦いでは、アイちゃん抜きで戦う」

 「え? うちダメなの」

 「君が駄目って言う話じゃない。むしろ切り札だから大事にしたい。ボスとの戦いのときに、魔法が使えなくなったら元も子もないだろ」

 「そっか」


 アイちゃんは嬉しそうに笑った。


 「うん。だから基本は三人で戦う。特にゴっちゃん」

 「おう!」


 ゴっちゃんも嬉しそうに笑った。

 

 「ゴっちゃんが雑魚狩りだ。ボス戦まではマー君の体力を温存したい」

 「了解。まかせろ」

 「うん。頼んだよ。ここは四人の力が合ってくれないと勝てそうにないからさ」

 「違うぞ」

 「ん?」


 俺はマー君を見上げた。

 頬が緩んでいる彼は、表情が微かに笑顔に入っていた。


 「五人だ」

 「え? 俺は含まれないよ。力がない」

 「・・・でも、五人だ。おいどんたちは五人で一つだ」


 微かに頬が膨らんで、ムスッとした顔になった。 

 俺の返答が不満だったらしい。

 

 「そうだ。あたしらで勝つ。クスがいれば、あたしらは安心して戦えるからな」

 「俺がいれば???」


 実力もない男がいて、何の役に立つのだ。

 

 「うちらは、五人揃って最強なんだもん。ク~ちゃんいないと始まらないよ」

 「そういうこった。俺もやるぜ」

 「ああ。あたしもだ」

 「おいどんが・・・・皆を守る」

 

 何でか知らないけど、こんなに信じてくれる四人の為に俺はここから前だけを見る。

 一緒になって前を進むんだ。

 たとえ、弱くても、たとえ、情けなくても。

 俺は皆と共に戦うことを決めたから。

 役に立つ、立たないで、冒険者を語るのをやめよう。

 俺が皆についていけなくても、俺は皆と共にいるんだ。


 「よし。いこうか。俺のタイミングで指示を出す。俺の手を見てくれ。俺が許可をするまで、声の合図はしない。緊急時以外は黙っててくれ。敵に気付かれるからな」

 「「「「了解」」」」


 ◇


 先頭は俺。

 黙ったまま手だけで合図をして森の中を進む。

 進むときは俺が方向を示して指二本。

 止まる時はパーで逆手にする。

 皆はそれに従順に応えてくれた。

 森の中腹辺りまでどのモンスターにも見つかっていない。


 この移動には、木を中心にして動く。

 それは敵の索敵から逃れるのがメインだからだ。

 モンスターが敵を見つける。その行動の基礎は視認である。

 目で見てから、敵か味方かを判断するので、モンスターって意外と出会った時に戸惑っていたりするらしい。

 ラーズローの本にも書いてあった。


 そこから更に匂いでも感知してくるタイプだっている。

 代表例は、森の中にもいるはずのウルフ系だ。

 奴らは匂いだけで人を見つける事が出来る。

 だから、そんな時はこれ。

 俺が持っている香水だ。

 魔除けの香水と呼ばれるもので、人間の臭いを消してくれる。

 ただし五分間のみ。しかも完璧に消せないという弱点もある。

 だが、ここにいるウルフレベルでは、おそらく距離のある俺たちの匂いを感知することはないだろう。

 これならばボスまでは一直線でいけるはずだ。


 ただし、俺が間違えなければの話だ。


 ◇


 そして五本目を使用。

 これが最後の魔除けの香水だった。

 ここからが最後の移動になるので、反音響結界を張って小声での会議となる。


 「最後だ。皆。ここで、奴らのボスまで一気に行く」

 「位置。わかってるの?」


 アイちゃんが聞いてきた。

  

 「大体わかる。ここに来るまでの間に痕跡を見つけた」

 「マジかよ。さすがだ。ク~ちゃん」


 ゴっちゃんがグッドポーズをした。


 「んじゃ。さっさと行こうぜ。あたしらで倒そう」


 シリちゃんが俺を真っ直ぐ見た。


 「ん。おいどんが先にいこう。ここからどうせ戦うのだ」

 

 マー君だけは俺の指示の先を行っていた。


 「よし。じゃあ、いつものフォーメーションでいくぜ。俺たち流の戦いで、敵をサクッと撃破といこうか」


 俺たちは得体の知れないボス戦に挑む。  

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