第14話 腹を括って森の戦いへ
翌日の朝。
「シリちゃん、マー君。回復してる?」
「あたしは大丈夫だ」
「おいどんも」
「よし、それなら完璧だな」
二人が体力全開なら大丈夫。
こっちの陽気な二人は最初から元気なので、最強クラスが四人揃ったことになった。
これはそんじょそこらの冒険者じゃ太刀打ちできないくらいの強さを持っているはず。
何せ昨晩、俺は二人のステータスを見させてもらった。
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シリカ・ヒューズ
所属なし 年齢22歳 職業大神官 人種ヒューマン
所有物 マースステッキ。天女の羽衣
所持金 140320G
レベル 9
体力 422(6121)
保有量 641(8641)
攻撃 411(7011)
防御 243(5932)
速度 564(6433)
器用 345(6654)
回避 543(6281)
知力 812(8182)
魔力 767(8767)
スキル 回復魔法ブースト 補助魔法ブースト 付与魔法ブースト
タレント 魔力集中 祈り
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マーカス・キンバリー
所属なし 年齢22歳 職業大戦士 人種ヒューマン
所有物 武器各種大型 防具各種大型
所持金 40329G
レベル 9
体力 932(8932)
保有量 154(1521)
攻撃 743(8452)
防御 933(8933)
速度 543(5328)
器用 764(6277)
回避 321(4821)
知力 782(6737)
魔力 221(1853)
スキル 武器防具 戦士系スキル 重戦士や狂戦士 ―――
タレント 肉体強化 思考並列 平行運用 ―――
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これにて、化け物二名追加である。
俺たちは、1パーティー内でレベル9が四名となる。
これで怪物パーティーの完成だ。
冒険者は一人でも冒険者。
二人以上でパーティーと呼ぶ。
大体八人くらいまでがパーティーと呼ぶ限界値だ。
それ以上だと、指揮が届かなく、連携が上手く揃わなくなるので、大体合同パーティーとかになる。
二部隊や三部隊編成とかになるのだ。
そして、大体30名以上からクランと呼ばれていくものになる。
冒険者パーティーにも、ランクが設定されている。
冒険者個人のランクと合致したランクが設定されていて、それに応じてクエストも対応されている。
そして、俺はあれから成長していたら別かもしれないが、昔で換算するとレベル2であっていると思う。
そこにこの四人がレベル9。
冒険者パーティーの中にレベル9が存在することは稀だ。
それはレベル9が、事実上のトップの冒険者たちのレベルだからだ。
これが四人もいる事が異常事態なんだ。
この世には、レベル10まで存在しているとなっているのだが、このレベル10になれた人間というのが、ごく僅かなのだ。
例えば、俺が読んでいた本の作者。
ラーズロー・ギスダル
この人もレベル10到達者で、世界初の世界踏破という偉業を成した人だ。
そして、直近のレベル10到達者は、俺たちが見た事のある有名な冒険者クラン
救国のロンバルディアの団長。
ニック・バイソン・クルセイル。
あの人だけだと思う。
彼は生きる伝説で、勇者と呼ばれるジョブに就いた人であり、世界のどこかにいる魔王を倒したらしい。
俺はたぶんその後に出会ったんだ。
晩年の彼だったが、その姿はとにかくカッコよかった。
戦っている姿じゃなくても、立ち姿だけでも、男が惚れるような人だった。
俺が憧れたのはそんな勇者である彼だ。
俺たちの村『ルフスト』で起きたモンスタ―変動事件を解決したのも彼だった。
クランであるのに、あの時はパーティ―で来て、一瞬で解決していた。
あれ以来どこに行ったかは知らない。
ギルドでの仕事で忙しいのかもしれない。
世界中を飛び回っているのかも。
とにかく、あのクランであってもレベル9をずらりと揃えるのは難しいのだ。
それなのに俺の目の前にいる四人は、俺の事だけを見ている。
普通ならニックのような伝説の男が、こういう人間たちを率いるはずなのに、なんで俺みたいな雑魚がこの幼馴染を引っ張っていく事になるんだろう。
一般人が超人を連れて行くという摩訶不思議な出来事。
誰かこの出来事を詳しく説明してほしい。
俺に分かりやすく、お願いしたい所だ。
「それじゃあ、注意点をあげる前にだ。村長さんに先に挨拶に言ってくる」
「ん? 何のために?」
ゴっちゃんが聞いた。
「戦いでのここについてを話してくるよ。俺たちが敵の中に突っ込んでいくとなると、ここを防衛するのは村人さんたちになるだろ。結界が存在していても、今まで守ってくれていた。マー君とシリちゃんがいない状態になるからさ。そうなったらここの人たちが不安になるに決まってるだろ。村人ってのは基本戦えないんだ。強い人がそばにいないだけで、怖くなるに決まってる」
俺だって、ほとんど村人と変わらないくらいに弱いからさ。
俺には分かる。
ここでの時間が無駄に過ぎていくだけでも、どんどん不安になっていくものなんだ。
俺も弱いから戦っている時の心境がこんな感じだ。
だから、村人さんたちの気持ちがよく分かるんだ。
でもさ。そんなに弱い男なのにさ。
何で俺って敵に立ち向かうんだろうな。
俺ってさ。皆より頭がいいように見せておいて、一番の馬鹿なのかもしれないな。
やらなくていい事をやっている気がする。
俺がしなくてもいい事をしている気がするんだ。
だから、皆よりも大馬鹿で決まりなんだよ。
結局俺が一番の馬鹿だ!
「そんじゃ、言ってくる」
「ク~ちゃん、出来るの?」
シリちゃんが聞いてきた。
「ん?」
「あたしらが行こうか?」
「なんで?」
「大丈夫?」
「・・・ん? ああ、そうか。大丈夫だよ。ここは、危険を知らせるっていう。土壇場な場面だよ! まかせてくれ」
俺が笑顔で答えたら、シリちゃんも笑顔になった。
シリちゃんは、俺の人見知りを心配してくれたようだ。
指示とかを伝えるくらいの事なら、あたしらが代わりにやってあげようか。
そういう意味で声を掛けてくれたんだ。
俺、皆に守られ過ぎてんだな。
だから今まで俺が皆を導いてたり、守っていたんじゃない。
皆が俺を大事にしてくれていたんだ。
皆、俺に対して過保護だったんだ。
そんで、俺は知らずに今回。
皆に最大級の無茶をさせてしまった。
たった五年の修行で、レベル9にまでなったんだぞ。
五年前はレベル4だった子たちがだ。ありえない修練を重ねたに決まっている。
それも俺と冒険をしたいがためにだぞ。
馬鹿だな俺は、本当にさ。無茶をさせたんだ。
それに対して俺はあんなクソみたいな生活で、盗賊から盗賊するスタイルで生きてたなんて、恥ずかしくて、この五年の事を言えない。
だから、俺はここから頑張るんだ。
皆が信じてくれる俺になるんだ。
あんな情けない奴。
誰が信用してくれるってんだ。
◇
「村長さん」
「あ、冒険者さん」
不安そうな顔のお爺さんだ。
俺も決意はしたものの本当の所はこんな顔をしたいのかもしれない。
「俺たち。敵に突っ込みます。その際、この結界はあるとは思うんですけど、敵のボスと戦う事で、もしかしたらこの結界が維持できないかもしれないです。シリちゃ・・・じゃないや。シリカも戦わないといけない状況になるかもしれませんので」
「・・・ええ、覚悟はしています」
「はい。ですが、出来る限り、あちらで戦いますので、過度な心配はなさらずに」
「はい」
「村長さん。正直に言えば、勝つとは断定できません。不死属性を持っているかもしれない敵なのでね。だけど、俺たちは自分たちが勝てると信じて、いってきます!」
「は、はい。お願いします。冒険者さん」
「はい!」
俺は村長に事実を正確に伝えた。
そして俺は皆がいる場所に合流するために歩いていく。
その途中も考えていた。
あそこで勝てると断言できないのが、俺が普通な冒険者である事の証明だ。
ニックのような英雄なら、必ず勝ってくるとか言うのかな。
そっちの方が良かったのか。悩むところである。
でも俺は英雄クラスの冒険者じゃないんだ。
だったら、そんな勝気な事を言えば、逆に不安にさせるかもしれない。
この戦いは難しいだろう。
不死属性との戦いは激化するからだ。
不死系という事であれば、スケルトンとかの事を言うので、シリちゃんの神官が持つ神聖魔法で対抗できるけど、不死属性というのは、傷などで死なない再生能力のある奴を指す言葉なんだ。
変異体の一種の事を言う。
あのラーズローの本にも書いてある基本事項だ。
そんな敵に対してだと、さすがに必ず勝つと断定が出来ない。
なぜなら、あっちがジリ貧の戦い方を選択すると、こっちとしては無駄に体力を奪われる。
この差が永遠に埋まる事のない持久戦になるからだ。
「いくらあいつらが強くても、俺らが勝つには、絶対に戦略が必要だ。無駄に戦ったら負ける」
俺は、覚悟を決めていた。
これが俺の冒険者人生の再出発となるのだろう。
これに勝てば、皆と冒険してもいい権利を得られるはずだ。
そしたら俺が、俺を許せる気がする。
情けない俺からの脱却の戦いになるだろう。
ここからが命懸けの俺の冒険の始まりだ。