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第11話 シリカがク~ちゃんを好きな理由

 あたしはちっちゃな頃から口が悪い。

 言いたいことを言って、何度かいざこざが起きていた。

 それで殴り合いの喧嘩をしていた時もあった。

 でも、あたしは止めない。

 間違ってないからだ。

 間違っていたら謝る。

 でも間違えていないんだ。あたしは正論を言っている。

 


 ある時、公園で遊んでいた子の中で、大泣きしている子がいたんだ。

 理由は、ボールを顔面に思いっきりぶつけられたからだった。

 でも、当時の公園では、そんな事は当たり前の事だった。

 なぜならこの頃の子供の一番の遊びである『スクエアボール』って呼ばれる。

 ボールをぶつけ合って点数を稼ぐ遊びがあったんだ。

 だから公園で誰かが泣くなんて日常茶飯事だった。

 その場をチラッと通り過ぎるような人間には、彼女のその涙が、遊びの一環での出来事だと思って誰も心配しないだろう。

 でも今回は違う。

 このボールをぶつけられて泣いていた子は、その遊びをしていない子だったんだ。

 だから、あたしがブチ切れて、遊びをしていた中で一番偉そうなリーダー格の男の子に歯向かった。


 「あんた。この子に謝んなよ」


 号泣している女の子を後ろに置いて、あたしはほっぺと体が柔らかそうな男の子に詰め寄った。


 「なんだお前。関係ない奴は来るな」

 「あんたが投げたボール。この子の顔面に当たって、痛そうじゃんか。謝れ!」

 「うるせい。不細工!」

 「んだと。てめえ。やんのかこの野郎」

 「ああ。不細工が粋がるんじゃねえ。俺に立てつくのか」

 「あぁ!? やってやるか。このクソ野郎」

 

 この少年と取っ組み合いの喧嘩になりそうになった時。

 少年とは別の黒の少年がどこからともなくやって来た。

 全身黒ずくめで、髪も目も。服すらも黒だったのだ。

 ここら辺でも珍しい姿の子だった。


 「ちょっと待ちなよ。君たち」

 「なんだてめえ」

 「あたしらの邪魔をすんな」

 「喧嘩するの? この子の話を聞いていないのに? 関係ない二人で?」

 

 黒の少年は、泣いていた女の子の手にハンカチを渡していた。


 「君。泣いているけど、どうして泣いてるの」

 「当り前だろ。痛いから泣いているんだろ」


 あたしが言ったら、黒い少年が自分の口に指を当てた。

 君は黙ってて。

 と優しく言っているような気がした。


 「さあ、どうして泣いてるのかな?」

 「うん。ヒック。ヒッ」


 泣いている女の子は鼻まで出ていた。


 「ゆっくりでいいよ。話せるタイミングで話そう」


 優しくいってあげると女の子は、話し出せた。


 「うん。私、ボールに当たってびっくりした」

 「そうだよね。あんな痛そうなボールが当たったらびっくりするよね」

 「うん」

 

 あれだけ泣いていた女の子が、泣くよりも話の方に集中していく。

 黒の少年は聞き上手だった。

 

 「じゃあ、このだるまみたいなお兄ちゃんが怖くて泣いたわけじゃないよね」


 こんだけ優しいのに、プヨンプヨンの男の子をすげえディスってた。

 意外にも毒舌だった。


 「うん。びっくりしただけ」

 「そうだよね。ボールにびっくりしただけだもんね」

 「うん」


 泣いたのはびっくりしただけ。

 痛いから泣いていたわけじゃないから、だんだん痛みが引いた現状では泣く必要がない。

 だから、今の少女は泣きやみ始めていたんだ。


 「でもさ。ちょっとは謝ってもらいたいよね。こいつらだけの遊び場じゃないもんね」

 「うん」


 この子に言っているようで、こいつに言っている。

 本当に聞いてほしい人に話を聞かせる誘導尋問だと思った。


 「君もまたここで安心して遊びたいもんね」

 「うん」 

 「そうだよねぇ」


 と言った黒の少年が、プヨンプヨンの男の子をジロっと見ると、目線も合わせずバツの悪そうな顔をしていた。

 あたしがあれだけ攻めて言った時は、対抗してきたのに、この黒の少年が語り掛けた時には負けを認めたような顔をしていたんだ。


 「・・・わ、悪かったよ。俺のボール、当てちゃって悪かった」

 「だってさ。君。許す?」

 「うん」

 

 女の子はあっさり許した。

 黒の少年に偉いねって頭を撫でられたら嬉しそうに笑うくらいに心が回復していた。


 「よかったね。だるま少年」

 「だ、誰がだるまだ」

 「だって名前知らねえもん。だるま少年って言うしかないじゃん。特徴を掴んだ。見た目重視の良いあだ名だ」

 「くそ。俺は、グラスナーだ!」

 「そうか。グラスナー君。これからは気をつけたまえ!」

 「なんで、お前が偉そうなんだよ」

 「ん! いいのかい。そんな態度でも。グラスナー君。君は一つ勘違いをしているぞ」

 「な、なんだよ」

 「ここは君が所有している公園じゃないんだ。村全体が所有している場所だ。君一人が自分勝手に。思い通りに扱っていい場所じゃない。ということはだ。ここにいる全員が、君はここで遊んじゃ駄目ってなったら、君は遊ぶどころか、ここに来れなくなるんだよ。いいのかい。皆を敵に回すような態度を取っても!」


 グラスナーが、一緒に遊んでいた奴らや、周りで他の遊びをしていた子らを見ると、青ざめていった。

 なにせ、皆が白い目で見ていたんだ。

 このままの自分の態度を貫くと、確実に自分がここには居られないと、子供ながらに悟ったんだ。


 「わかった。わかったよ。俺が悪いんだ」

 「うんうん。でも、こうやって謝っているんだ。皆も君を許すはずだから安心しなよ。だってこの子が許してくれたんだよ。だからみんなも、きっとわかってくれるから、君もここで遊んでいいはずだよ」

 「そ、そうか」

 「ああ。それじゃあ、仲良く遊ぶんだよ。じゃあね」


 と言って、黒の少年がこの場を立ち去った。

 凄い奴だった。

 あたしの出来ない技を持っていると思った。

 口だけで人が喧嘩をやめたんだ。

 絶対あたしには出来ない事をあの少年はいとも簡単にやったんだ。

 だから気になって追いかけて、大きな木の下で話しかけた。

 

 「なあ。おい」 

 「・・え・・・な、なに」


 急にオドオドし始めた。

 さっきまでのカッコいい姿が台無しだった。

 

 「あんた。なんでそんなにビクつくんだ?」

 「・・え・・いや・・なに? 用があるの?」


 不思議な男の子だった。

 さっきの姿が嘘のような態度だ。


 「ちょっと待てい。うちのク~ちゃんに文句があるの」

 「ん?」

 「とお。俺も参上!」


 明るい女の子と明るい男の子が、黒の少年の周りにやって来た。


 「なんだよ。あんたら?」

 「ク~ちゃんの友達」「俺も」

 「友達!? この男の子のか」

 「「そうだよ」」


 二人とも自信満々に受け答えた。


 「じゃあ、なんでこいつ、こんなにオドオドしてんだ。さっき、喧嘩の仲裁した時はスラスラと話してたのに、今は全く話せてねえんだけど」

 「ああ、それは人見知りだ」


 赤毛の男の子が答えた。


 「人見知り?」

 「そう。人見知りしてるからオドオドしてんの」

 「は? じゃあ、なんで喧嘩の仲裁の時は話せてたんだよ」

 「それは、たぶん。何か理不尽な喧嘩だったか?」


 赤毛の男の子が聞いてきた。


 「ああ。遊んでもいねえ女の子にボールが当たった。そんで泣いちゃった」

 「そうか。じゃあ、それに腹を立てたんだよ。だから話せただけ」

 「は?」

 「それはな。怒って普段の自分が消えただけだ。俺はその時のク~ちゃんを土壇場ク~ちゃんと呼んでいる」

 「は?」

 「土壇場になると不思議な力を発揮するク~ちゃんだ。頼りになるぞ。ハハハ」

 「はぁ?」

 「お前、見たんだろ。ク~ちゃんのその姿。稀に見る姿だから、見れたならよかったじゃん。なあ、アイちゃん」

 「うん。そだね~」


 女の子は、オドオドしてる男の周りをウロウロして喜んでいた。


 「なんだよお前ら。こいつが好きなのか」

 「「うん」」

 

 二人とも即答だった。

 よほど好きなんだと思って、そこからはあたしも興味が湧いていった。

 

 この後。

 結局あたしも、ク~ちゃんが好きになった。

 あたしに慣れてくれるまで一か月くらいかかったけど、慣れてくれると話しやすい男の子だった。

 思慮深く、計算高い面もあったり、気配りしてくれたり、考えていることがよく分からなかったりと、とにかく一緒にいて飽きない。

 不思議な男の子なんだ。

 でも根本が優しい。

 あたしらの事を誰よりも思ってくれている。

 それがクスネル・シューゲンという不思議な盗賊なんだ。

 これはもう心の怪盗だろ。

 あたしら全員、心を盗まれちまってるもん。

 そうだろ。皆も同じなはずさ。

 ゴっちゃんもアイちゃんもマー君もさ。

 


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