第7話 藍の導き手
「それより、」僕は藍甕を指さしながら言った。「まずは実験をどう完成させるか考えた方が現実的だろう?」
「そうだね!」彼女はすぐに本題に戻った。「まずは布の選び方…」
「布は質感が細かいものを選ぶといい、」千紗は真剣に言いながら布の山から慎重に選び出した。「こうやって折りたたむと、厚くなりすぎないから。」
彼女の集中した姿を見て、僕は思った。普段はどこかドジな彼女が、藍染に向き合うと全く違う一面を見せている。彼女の指が布の表面を軽く撫でながら、繊維の向きを確認しているようだった。
「この布、」彼女はついに一枚を選んで言った。「どう思う?」
僕は布に触れてみた。「触り心地は確かにいいけど…」
「どうしたの?」
「波紋の効果を出すには、小さすぎるんじゃない?」
彼女は一瞬戸惑った後、笑った。「やっぱり柊原くんは考えが深いね!」
僕たちはもう一枚、大きめの布を選んだ。千紗は彼女の考えに従って折りたたみを始めたが、すぐに困難に直面した。
「変だな、頭の中ではちゃんと思ってたのに…」彼女は眉をひそめ、手の動きに躊躇した。
「君のスケッチを見せてくれ、」僕は言った。「一緒に考えよう。」
彼女は様々な線が描かれた紙を渡してきた。夕陽の光が弱まり、僕は近づいて詳しく見た。
「見て、」僕は図のある部分を指さしながら言った。「ここから折り始めれば…」
「あ!」彼女は突然近づいてきた。「そうだ!こうすれば、中心点がここに来る!」
彼女は染料の匂いをまだ身にまとっていたが、なぜか今回は嫌な感じがしなかった。おそらく、彼女の髪に混ざった淡いシャンプーの香りが理由だろう。
「それで…」僕は少し不安そうに後ろに下がりながら言った。「試してみる?」
「うん!」彼女はまったく気づかずに、既に布の折りたたみに集中し始めていた。
夕暮れの光が窓から斜めに差し込み、藍甕表面の金色の波紋が彼女の真剣な横顔に映し出された。その瞬間、僕はなぜ彼女が藍染にこれほどまでに魅了されているのか理解した。
もしかすると、ある種の美しいものは、こうして全力で取り組む価値があるのかもしれない。
「よし、これで完了!」千紗は最後の折り目を終え、慎重に布を藍甕に持って行った。
「ちょっと待って、」僕は彼女を止めた。「染色の順番を確認しよう。今回の折り方は複雑だから、手順を間違えると…」
「心配しないで!」彼女は自信満々の笑顔を見せた。「全部計算済みだよ。最初の浸染は三分間、それから最外層を開けて、二回目は…」
彼女が手順を整理しながら説明する姿を見て、僕は驚いた。普段はぼんやりしている彼女が、藍染に向き合うとこんなにもきちんとしているとは。
「それでは、始めましょう!」
千紗は慎重に染め付けの角度を調整していた。何度か試みた後、彼女の動作は以前よりも安定してきた。僕は横に立ち、彼女の時間を計っていた。
夜の色が静かに窓枠に忍び寄り、教室には一つの明かりだけが灯っていた。甕の表面に浮かぶ金色の「花」が薄暗闇の中で際立ち、まるで天の星が水中に落ちたかのようだった。
「あと三十秒。」
彼女は軽く頷き、染液中の布を集中して見つめていた。気づけば、彼女の表情は柔らかく、そして決意に満ちていた。その瞬間、僕は別の千紗を見たような気がした。普段の少し不器用な少女ではなく、創作に情熱を注ぐ工芸家としての彼女だった。
「終わった!」
僕たちは一緒に布を藍甕から取り出した。最後の酸化過程は特に長く感じられ、二人で息を呑んで色の変化を見守った。深浅の異なる青色が徐々に現れ、思いがけないグラデーションが流れるような水紋のような模様を描き出した。