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第6話 千紗のアイデア

 「もちろんだよ、」白銀先輩が笑った。「藍甕あいがめにもそれぞれ個性があるから、調整しながらやらないとね。」


 「藍甕あいがめの…個性?」僕は少し困惑した。


 「人みたいに、」彼女は神秘的にウインクした。「時には優しくした方が、いい結果が出ることもあるんだよ。」


 染液が揺れるのを見て、僕は彼女の言いたいことが少し理解できた。これは単なる技術ではなく、染料や布、そして時間との対話のようなものだった

 「あと最後の一回だ…」千紗はつぶやき、額から滴る汗が床に落ちた。


すでに二時間以上が経過し、教室の空気は一層蒸し暑くなっていた。みんな疲れ切った表情を浮かべていたが、誰一人として諦めようとはしなかった。布の色はかなり深みを増し、夕暮れの空のように見えていた。


 「絞り染め?」白銀先輩が突然、僕たちの背後に現れた。


 「完璧ではないけど、」千紗は首を振りながら答えた。「違う方法で折りたたんで、染料の層を工夫すれば…」


 「面白いね、」白銀先輩は考え込むように言った。「でも、毎回の染色時間と折りたたむ位置をしっかりコントロールしないと…」


 「私も試してみてもいいですか?」千紗が期待に満ちた目で尋ねた。


 「もちろん、」白銀先輩は笑顔で答えた。「でも今日はまず、この布を完成させましょう。」彼女は染液に浸かっている布を指さしながら言った。「タイマーがもうすぐ切れますよ。」


 「わあ!」


 千紗は手際よく新しい可能性を探し続けていた。その姿は少し滑稽だが、同時にとても可愛らしかった。


 「柊原くん、」彼女は慎重に布を取り出しながら言った。「後で…後で私の実験を手伝ってくれますか?」


 「今日はこれでクラブ活動は終わり、」白銀先輩が窓の外を見ながら言った。「もうすぐ日が暮れるね。」


 他の部員たちは疲れ果てて言葉も出ず、黙って道具を片付けていた。いつも元気いっぱいの千紗も椅子に座って息を切らしていた。


 「そうだ、」中島先輩が突然言った。「藍甕あいがめの掃除を…」


 「私たちが片付けます!」千紗はすぐに手を挙げ、目が再び輝いた。


 「え?」僕が口を開こうとしたその時、彼女が新しい染め方を試したいと言ったことを思い出した。


 「それじゃあお願いね、」白銀先輩が意味深に僕たちを見つめながら言った。「でも遅くなりすぎないでね。警備員さんが九時に見回りに来るから。」


 他の部員たちが全員帰った後、教室は一気に静かになった。夕陽が床に長い影を落とし、藍甕あいがめの表面に浮かぶ「花」が夕暮れの光の中で金色の微光を放っていた。


 「見て!」千紗がしわくちゃになった紙を取り出し、様々な折りたたみ線が描かれていた。「こう折って、そしてこう…」


 「待って、」僕は彼女のスケッチを見ながら言った。「こんな感じだと、染料が均一にならないんじゃない?」


 「そうだよ!」彼女は興奮しながら答えた。「不均一さを利用して、見た目を…」

 「波紋みたいに?」


 「うん!」彼女はうなずいた。「それに、布の織り目に合わせて…」


 彼女が手を動かしながら説明する姿を見て、僕は思わず笑ってしまった。さっきまで疲れて動くのも嫌だったのに、新しいアイデアの話になると疲れを忘れてしまう。


 「じゃあ、」僕は袖をまくりながら言った。「どこから始めよう?」


 「本当に?」彼女の目が輝いた。「手伝ってくれるの?」


 「どうせ残ったんだし。」


 「やった!」彼女は喜びで一回転しようとしたが、すぐに止まった。「あ、でも…私ってちょっとわがままかな?」


 夕陽が彼女の輪郭を暖かなオレンジ色に染め、髪の先まで光っていた。

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