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第2話 古き藍の誘惑

 「コホン、」白銀先輩は優雅にそれを隠した。「とにかく、まず見学に来てみませんか?今日の午後は実験をする予定です。」


 彼女たちの真摯な眼差しを見て、どう見ても仕組まれているように感じたが、僕は全く拒否する勇気が出なかった。


 「う、うん…わかった。」


 「よかった!」千紗は歓声を上げて前に走り出そうとしたが、抱えていた蓼藍たであいがまた散りそうになった。


 「あ、やっぱり僕が持ってあげます。」僕は慌ててそのほとんど崩れそうな植物を受け取った。


 白銀先輩は満足そうな笑みを浮かべた。「新メンバーは本当に頼りになりますね。」


 「まだ入部を決めてないのに。」


 「きっと気に入ると思いますよ。」彼女は確信に満ちた口調で言った。


 こうして僕は彼女たちと一緒に旧校舎にある工芸研究部の部室へと向かった。年代物の木製ドアを押し開けると、淡い藍染あいぞめの香りがふわりと漂ってきた。


 部室はそれほど大きくはなかったが、きちんと整頓されていた。壁には様々な藍染作品が貼られており、どれも藍染の独特な魅力を見事に表現していた。


「ねぇ、見て!」千紗が暖簾の前で立ち止まり、「この部分、まるで波のように見えない?祖母のノートにも似たようなデザインがあったの。」


 しかし、最も目を引いたのは部室の隅にあった展示ケースだった。ガラス越しに見ると、中には一見古びた着物が展示されており、その上の青色の模様は精緻で息を呑むほどだった。


 「それは…」


 「これは私の曾祖母の作品なんです。」千紗の声が急に柔らかくなった。「若い頃、大事な場に参加するために、三ヶ月かけて作ったって。家の宝物なんですよ。」


 「工芸研究部はこの作品の染色技術をずっと研究してきましたが、今までその独特な青色を完全に再現することはできませんでした。」白銀先輩が補足した。


 僕は思わず展示ケースに近づいた。陽光が窓から斜めに差し込み、着物の上にその青色がまるで生きているかのように光と影の中で動いていた。化学式が頭の中で高速で回転し、もしかしたら、これは科学と伝統工芸が出会う絶好の機会かもしれないと感じた。


 「柊原さん?」千紗の声が僕を現実に引き戻した。彼女はすでに工芸部のエンブレムがついたエプロンに着替え、実験用具を準備していた。


 彼女の忙しそうな姿を見て、飛び級生である僕もここに居てもいいのかもしれないと感じた。時には、科学と工芸、理性と感性の間に橋が架かるべきだからだ。


 「手伝いましょうか?」僕はリュックを下ろし、袖をまくって彼女の元へ歩み寄った。


 工芸研究部の活動室は小さいが、独特の雰囲気が漂っていた。年代を感じさせる窓枠から差し込む陽光が空間全体を暖かな色調に染めていた。隅の展示ケースの中の藍染着物は、まるで遠い物語を語りかけてくるようだった。


 「柊原さん、こっちです!」千紗の声が僕の思考を現実に引き戻した。


 彼女は工芸部のエンブレムがついたエプロンに着替え、複雑そうなガラス容器を手際よく扱っていた。僕が素早く手を差し伸べて支えなければ、その容器は床に落ちてしまうところだった。


 「気をつけて!」


 「あ、ごめんなさい…」千紗は恥ずかしそうに舌を出した。「私、いつも急ぎすぎちゃうんです。」


 「千紗さんの情熱は時に適度な…調整が必要ですね。」白銀先輩がいつの間にかエプロンに着替え、笑顔で近づいてきた。「でも、それも彼女の可愛らしいところですよね?」

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