第3話:平使を合う少年
「みんな、気をつけて...」
「どうしたの?」ゼンヤが尋ねた。
「その先生が...さっきナイフを持って僕の後ろに忍び寄った。」
驚いたたゼンヤは、「彼も顔簾なの?」と反応した。
「まさか。彼は年を取りすぎている!」 真央は笑いながら答えた。
3人が肩を寄せ合っているのを見て、先生が「君たち!ボールを持って、フープをして!」
用心深く、一行はコートに近づき、ボールをつかんで並んだ。真央の番になると、彼はフープから遠く離れて歩いた。「見てろ!」
彼は手の位置を決め、バスケットにボールを投げた。3ポイントだった、「よっしゃー!!」
その後、彼は列の最後尾に戻り、教師が「目立ちたがり屋はやめなさい!」と彼の頭を叩くと、皆がそれに応えて笑った。
次は永優の番だった。定番の構えでシュートを打った。入ったが、何か違和感があった。「......なんか、100回もやったような気がしたのだろう?」
再び真央の番が回ってきた。そして前回同様、シュート技術を披露した。それに対してまたもや頭を叩かれた。真央がどんな人間かは誰の目にも明らかだった。
コートの反対側では、ゼンヤが信じられないスピードでボールをドリブルしていた。普通の人の目には、1秒に1回ドリブルをしているようにしか見えない。しかし、なぜか永優には、彼女が1秒間に50回近くもドリブルしているのがはっきりと見えるほど速かった。彼は、廊下での先生との出来事で体が震えているのだと思い、それを受け流した。
時間はあっという間に過ぎ、ピリオドは終わった。みんな更衣室に戻った。しかし、永優と真央がそこに向かう途中、体育教師に呼び止められた、「お前たち、ここにいろ。」
真央が戦闘態勢を整え、「平使、何が望みだ?」
「平使?」
「よくご存知ですね 。」と先生は言った、「お前は筋肉ばかりで頭脳がないと思った。」
「お名前は…平志?」 と永優は尋ねた。
先生が笑った、「けどこいつはバカ!」
「ゼンヤが話の中で言っていた兵士を覚えている?」 真央が説明した、 「そいつは平使だ。」
異界から派遣された軍隊、彼らは平使と呼ばれた。永優はそのことを肝に銘じて、再び男と対峙した。
「我々を殺しに来たのか?」
「ルールを知らないのか、ガキ?」と先生は冗談めかして言った。「平使は顔簾を殺してはいけないぞ!」
永優は再び唖然とした。しかしよく考えてみると、ゼンヤの話には、偉大な英雄の子供たちに危害を加える兵士たちのことは書かれていなかった。「それで...ここで何をー」
その瞬間、真央は肘で永優を殴ろうとした。ありがたいことに、彼はタイミングよくそのヒットをかわすことができた。「ちょー何をー!」
「お前、本当に暗闇の中にいるようだ...」先生は言った、「平使は親族戦線のレフェリーのようなものだ。俺たちが現れると、顔簾同士の戦いが繰り広げられなきゃ。最後に一人が生き、一人が死に、生き残った者は真の英雄の末裔に一歩近づく。」
真央は積極的に永優にパンチを浴びせるが、ことごとくかわされる。彼にとって、それは自動的なものであり、真央が次にどこを打つかを知っているようなものだった。
「なぜこんな目に遭わっての?なぜ殺し合わっての?!」
「他に方法がないからだ!」 真央は叫んだ。そして、拳をさらに速く動かしたが、どれもつながらない。
そして、平使は金属の塊を真央に投げて言った、「これを使え!」
真央は包丁の柄と手のひらを再び合わせ、包丁を握った。「お昼ご飯まいど。さあ、死ね!」
感謝から怒りに変わった彼の表情に驚いた永優は、再び彼の一振り一振りをかわすのに全力を尽くした。
「動くな!」真央が叫んだ。
「いやよ!殺される!」
この窮地を打開しようと考えた永優は、一人で笑いながら平使を見て、彼の立っている場所まで走った。またしても既視感に包まれ、体が勝手に動いた。
「助けて!」
「え?」
平使は永優の腕をつかんだが、マッハのスピードで真央に近づきながら、真央に背を向けた、「逃げられないぞ!」
「賛成!」永優はにやにや笑いながら、背中から平使の腕をつかんだ。それに気づいた生意気な教師は腕をどかそうとしたが、その時点で遅かった。永優がちょうどいい角度で首を傾げると、真央の包丁が平使の頭を斜めに切り裂いた。
「あー」
切り落とされた頭部から液体が降り注ぎ、永優と真央をその中に浸した。
「はぁ…はぁ…」 真央はそのスイングで力を使い果たした。「俺…平使を殺したのか…?」
永優は真央を振り返り、「そのようですね 」
「うそ...」 真央はこの発見にショックを受け、反応した。
永優は目の前で起こったことにまったく動じることなく、冷静にこう締めくくった、「顔簾は平使を殺せるほど強いのか...」
そのささやきを聞いて、真央は苛立ちながら尋ねた、 「何をしゃべってるんだ?」
「現時点では、可能かもしれないが...」
「おい!」真央が叫んだ、 「人が死んだばかりなのに平然としたの?!」
「彼はただの人間じゃなかった。」永優は答えた。「それに、もし彼が人間だったら、血を流しただろうね…」
アパートで一人暮らしをしている間に、映画や本を読んで暴力に鈍感になっていたせいかもしれない。あるいは、何も知らない自分の死の体験が原因かもしれない。いずれにせよ、永優はその死体を人間とは思えないほど観察することができた。
真央が辺りを見回したとき、彼が浴びたのは血ではなく緑色の液体だった。「本当だ…」
すると突然、床と服についた液体が真空パックになり、液体がこぼれた場所に再び集まった。ゆっくりと、しかし確実に、液体は再び彼らの体育教師の姿となった。
「それは絶対に計画外だ!」と彼は言った、「お前たちは俺を殺せない。平使が顔簾を殺せないのと同じだ!」
真央は突然復活した平使にショックを受けた。しかし、永優は完全に冷静だった。
「お前、他の何かだと知ってた!先のテストは、その証拠よ!」平使は興奮気味に言った。
真央は戸惑いながらも、「テスト?何のテスト?」
平使は彼にこう言った、「心配しないで!お前のテストはすぐにやってくる!」
「じゃあ、俺…そのテスト…」
ドサッ
真央は疲れ果てて地面に倒れ込んだ。
「。。。」
永優も平使も言葉を失った。
「…医務室に運び。そこで話そう。」
「6時限目は?」
「先生には、俺が器具の修理を手伝ってくれたと言っておくわ。さあ、行こう。」
彼らは意識のない真央を担いで医務室に向かった。到着すると、平使は真央をストレッチャーに乗せて休ませた。
永優はベッドの脇に座り、平使に話しかけた、 「で、平使さんー」
「オロ先生と呼んで」と笑顔で言った。
顔簾と平使という存在の事情、殺していいことと悪いことのルール、悪用される可能性のある抜け道など。自分が引きずり込まれたこの奇妙な新しい伝承を掘り下げることで、知りうる限りのことを知らなければならなかった。それが、彼がこれまでの人生で適応してきた戦略だった。
「分かった。」 永優はそれに対して、「それで、平使を殺せないことについて... 」
「誤解しないで!ただ、俺たちのような超人は、顔簾に殺されることはできない。」
「悪魔も殺せないということですか?」
「ああ、お前は完全に悪魔を殺すことができます!偉大な英雄がやったことだろう?魔王だって倒した!英雄の仕事は、結局のところ、すべての領域のバランスをとることだった。」
「その理屈なら...神々も殺されるのか?」
先生はにやにやした、「面白いですね!とても興味深い!お前のような顔簾が、そんな冒涜的なことを考えるとはね!」
永優は親族戦線のルールの最初の抜け穴を見つけたのだ。しかし、彼が喜ぶ前に、オロはもうひとつ付け加えることがあった、「だが、お前に思い出させないと… お前らは神を殺すことができるが、神はお前らを殺すこともできる。」
好奇心を刺激された永優は、「君、神々を殺せるのか?」と尋ねた。
「無理だ!彼らがおれを創ったんだ!その威厳に触れることすら許されない!」
「そうか…」 永優は少しがっかりした様子で、「でも、君は僕が彼らを殺すことに反対していないか?」
「勇ましいことを言うね。しかし、お前はここで神に逆らっている。本当に天界を崩壊させることができると考えているのか?」
「彼らを倒す必要はない。僕はただ、流血なしにこの争いを終わらせる必要があるだけだ。」
「俺の頭を真っ二つにした少年が言うんだ!」でも、その宣言を聞いたオロ先生は、喜びから一転、真剣な表情に変わった、「自分がやろうとしていることの重大さ…知らないのか?」
「神々は知らないのか?」 永優はにやにやしながら答えた。
「どうやって目的を達成するつもりだ?神々の怒りに対して、顔簾にできることはほとんどない。」
「そうではないかも。」永優は自分の無知を認めた。「けど、もし神々が真の英雄の子孫を恐れ、殺し合いをしなきゃほどであるならば、顔簾にはこのようなことを実行せざるを得ない何かがあるはずだ。」
「…何かを掴んでいると思う...」その時、7時間目のベルが鳴った、「残念ながら、この話の続きはまた別の機会にしましょう。まだ授業があるんだ。」
「あーうん…」
「心配するな!お前の秘密計画は俺が守る!」 嬉しそうに保健室を出ていった。
オロさんが帰ると同時に、真央が目を覚ました。「合格!!!」
永優は彼を見て、ただ見つめた。彼は何も答えなかった。
「…何があった?」
「…教室に行く途中で話すよ…」永優は答えた。
永優が廊下でゼンヤや真央と衝突してからまだ6時間しか経っていない。そしてその日はまだ終わっていない。しかし、その6時間の間に、永優は自分の過去、現在、未来について十分な知識を得た。そして、永優の人生で最も長い一日が始まった。
次回:第4話:放課後にすぐに帰る少年




