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第二十九話②(アカリ視点)

「あー、先ずはごめんなさい。私もこんな事は初めてだから慣れてなくて……痛かったですよね、ごめんなさい」


 私は慌ててメイドさんを押し倒して、声を出されないように口を押さえているわけだが、今更この犯罪感強めの状況に、焦りを感じ始めていた。

 

 いくら通りを守る為とは言え心苦しい……このメイドさんは決して、悪い人ではないだろうから余計にだ。


「な、何なのですか貴方は……まさか! 女王様を狙って……!!」


 押さえられた口で、メイドさんは必死にそのような事を口にする。勿論口を押さえている為大きな声は出せていないが、そのか細くなってしまっている声が、更に私に罪悪感を増幅させた。


「別に女王様をどうかしようってわけじゃないんです。ただ話がしたいだけ……それだけです」

「でしたらどうしてこのような事を! 貴方のやっている事は間違っています!」

「……間違った行いをされたが故の、仕方のない行為です。私も好きでこんな事をやっているわけではありませんから、そこらの犯罪者と同じ括りにはしないでもらいたいものね」


 相手の発言に少しばかり強い口調で言い返した後、私は予めパンプキンに用意してもらっていたものをポケットから取り出した。

 

 それは魔法で出来たクリスタルだ。

 これは使用後直ぐに効果を発揮するものらしく、使用された対象は、数十分間は余程のことがない限り目を覚まさなくなるらしい。

 これを嗅がせて、少しの間お休みになってもらうとしよう。


「ごめんなさいねメイドさん……。起きたら私はこの城に居なくなってると思いますから、どうか安心して眠って下さい」

「安心なんて出来るわけが……な……」


 喋りながらメイドさんは瞼を閉じて眠りについた。

 押さえていた手を退かすと、散々しゃべられたせいでメイドさんの涎で、手がベトベトになっていた。

 床の絨毯でそれを軽く拭った後、私は立ち上がって深呼吸をした。

 目の前に広がっているのは、どう見てもドラマなどでよく見る犯罪現場だ。

 この現場を見られれば間違いなく捕まってしまうだろう。そうなればマヤトの力を頼ることになる。


 それは極力避けたい私は再度気合いを入れて振り返り、ドアノブを手に取った。

 グッと奥に押して開けようとしたところで、不思議とその扉が途中で開く事をやめてしまう。

 何かにぶつかったのだろうか。


 不思議に思いながらも隙間からゆっくりと顔を出すと、そこには高貴な見た目をした女性が、私を不思議そうな顔をしながら見つめていたのだ。


「貴方は…どなたかしら?」

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