第二十九話①(アカリ視点)
「いつもご苦労様ですクレノアさん! こちらに出来上がっておりますのでどうぞお取りください!」
「こちらこそいつもありがとうございます。では、失礼致しますね」
コックとメイドさんは互いに軽く会釈をして、メイドさんは料理の乗ったワゴンを受け取り、調理場から離れて何処かへと歩いていく。
先程とは比べものにならない程豪華な食事だ、やはりこれが女王様のもので間違いないだろう。
「兵士さん申し訳ないがもう暫く待ってくれるか? 直ぐに用意を……あれ?」
後ろからそんな声が聞こえてくるが、私は無視して先程のメイドさんを追いかける。勿論バレないようにだ。
どの部屋まで持っていくのかはわからないが、台車を押しているという事は、階段を利用する事はないだろう。私はある一定の距離を保ちながら忍足でメイドさんを追いかける。
そのまま暫くメイドさんは長い廊下を歩いて、ようやく扉の前で立ち止まった。
あそこに女王様がいるのかもしれないと思ったが、それはあり得ない事を知る。
何故ならその先には部屋がなく、道がまだ続いていたのだ。
確かにこの城は広い、廊下もランニングコースばりの長さがあるわけだが、それにしてもこの先にまだ道が続くほどこの城は長かっただろうか。
そう思いながらも、メイドさんがそこを出て直ぐに私も扉を出たわけだが、その先は外へと繋がっていた。
壁が隔たれており、完全に外に出たというよりかは、庭に近いのだろうか、メイドさんは未だ先へ先へと歩いていく。
こんなにも長い道を歩いていくだなんて、料理が冷めてしまうのではないかと、余計な心配をしながら私はメイドさんの引き続き追いかける。
するとメイドさんは、外に出たのにも関わらず、再び城の中へと戻っていった。
だが先程とは違うのは、先程までいた城とは違ったもう一つの塔、外から見る分には物置小屋のようにも見える場所に入っていったのだ。
不思議に思いながらも中に入ると、思いの外中は広く、いくつかの部屋が用意されていた。
その際奥にメイドさんは立っている。
ここが女王様の住む場所だというのだろうか。わざわざ城には住まずにここに住んでいるとは、少しばかり別居に近い何かを感じた。
コンコンとメイドさんがノックをしたところを見た私は、咄嗟に動いてメイドさんの口を押さえこんだ。
メイドさんと女王様2人同時に相手には出来ない為、申し訳ないがメイドさんには一度ここで退場してもらいたい。
私はメイドさんを別の部屋へ強引に連れ込んで、乱暴かつ丁寧に、床へと押さえ込んだ。




