第二話④ アカリ視点
――
「クラウン、お前をこの学園から追放する!!」
そう高らかに宣言したのは、今までずっと仲良くしてきた、私の幼馴染だ。
そしてそれを囲むようにして立ち、私を睨みつけているのも、皆私の友人たちだ。
この世界で5人だけしかいない友達、その全員が今、私に濡れ衣を着せようとしている。
その事実が受け入れられず、ただ私は俯いていた。
そんな時、ある1人の女が口を開いた。
「クラウンさん。今なら通報せずに、ここだけでの問題として片付けます。今すぐこの場から出ていってください」
私はたまらなくなり、力強く拳を握りながら彼女を睨みつけた。
「アリス…あんたね……」
皆はアリスの罪を、全て私になすりつけたのだ。
それは皆が提案した事なのか、はたまたアリスから提案した事なのかはわからない。
そんな事までわからないが、濡れ衣を着せた相手に対して、この接し方はなんだ。
罪悪感などは感じていないのか。
私はただ不思議で仕方がなかった。
先日の事、この学園で管理されている魔道具が、盗まれかけてしまう事件が起こった。
盗まれかけたそれは、1000周年を向かえた学園に、王家の方々がお祝いとしてプレゼントしてくれた、とても貴重なものだった。
噂によると、その魔道具の価値は、この世界で10本の指に入るほどのものだそうだ。
それを盗もうとしたのは何もの何者か、私は偶然にも見てしまっていた。
アリスが学園長室に、忍び込むところを。
後からそれに気がついたアリスは、必死にこの事は黙っていてくれないかと、私に頼み込んできた。
正直このような事を黙っておくのは、私にもリスクが伴う。
それに未遂とはいえ、犯罪を犯そうとしたものを野放しにするのも気が引ける。
そう考えているところに、皆がやって来たのだ。
どうか彼女を許してやってほしいと、皆は私に頭を下げて来た。
ここで了承したのが間違いだったんだ。
みんながここまで真剣に、何かを頼み込む姿を見るのは初めてで、私は今まで曲げたことのない、自分の中の正義を曲げてしまった。
だからこんな事になってしまったのだろうか。
学園のど真ん中、体育館でまるで公開処刑のように、学園追放を宣言されるとは。
「クラウン君……君は魔法の成績は悪かったが、真面目で、そして努力家で、とても感心していた」
「先生……」
側にいた、私と交流があった先生がそのような言葉をかけてくれた。
味方は少なからずいるのだと、そう思えた。
その瞬間だ。
「なのにがっかりだ。あれは演技だったんだな」
「そうだぞグラウン。お前のような魔法の才がないものが、何故この学園にと不思議におもっていたんだ。これが理由だったんだな!!」
「私は貴方を信用していました。それが裏切られて、とても悲しい……いや、今は怒りしか感じません」
辺りにいた先生方は私を罵り、その周りにいる生徒は皆、私を笑い、蔑む。
どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
事故で命を落とし、その後は悪役令嬢に転生して、最後は濡れ衣を着せられて学園を追放される。
「ふざけるな!!!」
私は皆が、言葉を口にする事が出来なく程の勢いで、そう叫んだ。
そして皆を見渡すようにしてこう叫ぶ。
「アンタら見ておきなさい!絶対後悔させてやるから!」
「ふ、ふざけているのか!罪人の分際で!」
「うるっさいわね!何も知らない外野は黙ってなさい!!」
私はかつての友達を皆、睨みつける。
彼らの怯え切った表情、もうすでに私を友達とは認識していないみたいだ。
「じゃあねみんな。せいぜいお幸せに」
私はそんな言葉を吐き捨てて学園を去った。
涙が溢れ出そうになったが、絶対に泣いてなんかやらない。
あいつらのために流す涙など、一粒も存在しないんだ。
――
そして間も無くして、私の貴族の地位は没落した。
話が飛びすぎだと思うかもしれないけど、何ら不思議な事ではない。
信頼を失ってしまい、私たち貴族は事業が上手く回らなくなってしまった。つまり、私の評判のせいだ。
当然そんな私を両親は優しく許してくれる事はなく、そして程なくして消息をたった。
友人、家族、そして私は住む場所すらなくなった。
屋敷は売り払われて、私のお気に入りだったものも全て、どこかの誰かに買い取られてしまい、何もなくなった。
あるのはこの薄汚れたドレスと、皆に対する恨みのみ。
いつか見返してやる。報復だとか、復讐だとか、そう言った事ではなく、いつの日か見返してやるんだ。
あいつらの幸せを鼻で笑えるような。
作られた、誰かの犠牲の上に成り立つ幸せを、心の底から馬鹿にしてやるんだ。
私はそんな意気込みを心で誓いながらも、街中でこのように叫んだ。
「どうしてこんな事に!!私はただ!!真面目にやってきただけなのに!!」
――
「そこで振り向くと貴方がいたのよ。ほんっと、クソみたいな話でしょ?」
私は転生者である事、そしてかつての友に裏切られた事をなるべく簡潔に話した。
過去に起きた出来事を、全て話せば長くなると考えたからだ。
「うっかり口調が悪くなってしまうほどには、腹が立っているみたいだな」
「それはそうでしょ?この後に及んで、「彼らが幸せならば」なんて考え、思い浮かばないわよ」
すると相手は、この場で向けるべき表情ではない顔を、私に向ける。
「……何笑ってんのよ?」
「いや、俺たちはもしかしたら、良い協力関係になれるのではと思ってな」
「何を言ってるの?私たちは今日こうして愚痴を話し合って、はいさようなら。そう言った関係でしょ?」
「まさか、俺はお前との出会いを、今まで感じたことのない、言わば運命のように感じていたんだ」
こいつは何を言っているんだろう。
「まぁ落ち着きなさい。貴方はきっと疲れて、、」
「俺とパーティを組まないか!!」
彼は私の瞳を真っ直ぐ見て、そんな馬鹿げた事を楽しそうに、そして真剣に伝えてきた。




