第二十八話③(アカリ視点)
暫くして、ようやく調理場に誰かが訪れた。
白と黒を基調としたフリルの衣装を身につけた女性で、ドアを開けたのちに、ゆっくりと調理場へと入っていく。
容姿と落ち着きのある態度を見るに、メイドさんだと思われる。もしそうだとすれば、女王様の食事を運んでも不思議ではないと思い、私はじっと扉を見つめる。
すると次々と似たような格好をした女性達が調理場へとやってきて、その中へ同じような動作で入っていき始める。
合計10人ほどが入った後、暫く何も変化が訪れないまま数分の時間が流れた。
こんなにも多くの数が訪れたわけだが、この中の誰かが女王様に料理を運ぶのだろうか。
そんな事を考えた途端のこと、ドアが勢いよく開いて、先程のメイド達がワゴンに乗せた大量の料理を運びながら出てきた。
10人が運ぶものを全て合わせると、100食分以上はあるだろうか。そんな大量の食事を皆ゆっくりとワゴンを押しながら、何処かへと運んでいく。
恐らくあの量からして、あれらは女王様へ持っていくものではなく、兵士の為の食事だろう。
言い方は悪いが、国王などの偉い立場の人間が食うような食事には見えなかった。
ならばまだ女王の食事は完成していないのだろうか。
大量の人間が去った後ということもあり、一度調理場を覗いておこうと、リスクを承知で私は動いた。
ゆっくりとドアを開くと、中では未だ調理が続いていた。
今作っているものが、女王の料理なのだろうか。
ここからでは離れていて何を作っているのかすらわからない。
「そこを退いてくれますかな?」
すると突如後ろから、何者かに声をかけられてしまう。
誰かはわからないが、急いで振り向いた私は言い訳を口にする。
「失礼、ここにくるのは初めてなもので……申しわけございません」
「何故兵士の君がこんなところに?」
「兵士に供給された料理が2名分ほど足りなかったので、その事を伝えにやってきたのです」
「ほうそうか、ご苦労だったな」
相手は女性、格好からするに騎士だろうか。
随分と立派な装備を身につけている。
「おい調理中すまないがいいか? 2つ程兵への食糧が足りなかったみたいだ。直ぐに用意してくれ」
「本当ですか? 王への食事が完成次第、直ぐに確認し、用意させてもらいます!」
都合のいいことに、王と言った単語が出てきたな。
ならば女王の食事も作っていると考えていいのだろうか。
「すまないがここで待っていてくれるか? 私は王の食事を持って行かなければならないのでな」
「はい、ありがとうございます」
その騎士らしき人物は、出来あがった王の料理を持ってその場から離れていった。
するとその後直ぐに、入れ替わるようにしてある人物がやってきた。
「女王様への食事は完成しているでしょうか?」
目を瞑ったお淑やかな、私のイメージ像とぴったりなメイドさんだ。
先程の発言からして間違いない、この人が女王様の元へ食事を運ぶ役割をもっているのだろう。