第二十七話(アカリ視点)
「また暇になったわね」
仲間が戦地に赴いて調査へと向かった最中、間抜けにも私はそんなことを口にしながら、通りの空を眺めていた。
相変わらず空は雲で覆われており、光は差し込まず、太陽の存在を感じさせない変わった景色になっている。
けれどそんな事を忘れさせるほどに、通りの皆は活気に溢れた態度で出店の開店作業を進めていた。
既に夕方が近づいているのと、今日は祭りが開催される曜日だ。頻繁に行われるものにも関わらず、通りの方達は飽きたかのような態度は一切見せず、寧ろ楽しみにしている子供たちのような顔を浮かべていた。
「おー嬢ちゃん、今日は新作を出すだ。良ければまた見に来てくれ!」
「あらお嬢ちゃん、今日もサービスするから来ておくれよ!」
すっかり顔馴染みとなった出店の店主の方々が、私の顔を見るなり気さくに声をかけてきてくれ、私も機嫌良くそれに返事を返した。
邪魔になるといけないと思い、私はその場を離れてふと見つけた喫茶店に入る事にした。
相変わらずこの通り特有の、お菓子の甘い香りが漂ってくるが、このお店のものは何処か上品と言うか、甘味の強い匂いはせず、焼き菓子のような程よい香りが店内を満たしていた。
落ち着いた態度の、所謂マスターと言ったような、ちょび髭を生やした店主が席へと案内にてくれ、私はそのカウンターの席に腰を下ろした。
喫茶店ということもあり、ここならある程度暇をしないで時間を潰せるだろうと、私はメニューを見て気になったものを幾つか注文した後、気ままにマヤト達を待つ事にした。
――
「アカリ……聞こえるか?」
何やら不機嫌そうな声で話すマヤトの声が、鼓膜ではなく脳を伝うようにして聞こえてくる。
これが魔法での通信というものかと思いながら、軽く返事を返す。
「何? やっと終わったのかしら?」
「その通りだが……まずかける言葉は「お疲れ様」だとか、そういった労いの言葉じゃないのか」
「私はとっても暇だったのよ。いい喫茶店を見つけたからよかったけど、そうでもなければ暇で暇で干からびるところよ」
「人の体がそんな構造をしていたのかどうかはわからいが、ひとまず喫茶店にいるのだな? そこに向かうとするから、大まかな位置を頭の中で思い描いていてくれ、それを読み取って向かうとする」
頭の中を読み取る事も出来るのかと、少し警戒心を抱きながら、私は頼んだコーヒーに砂糖を付け足しながら、追加で戻ってくる2人用のお菓子を頼んでおいた。