第二十六話①
「ゲームが終わり次第、もう俺の邪魔はしない事を誓ってくれ」
俺は一気に決めにかかることにした。
だが実際これは、あまり良い手段とはいえない行動だろう。
上手くいけば、今俺がした要求を飲んでもらった次のターンに、有益な情報を提供してもらう事ができる。
そしてその後に相手の要求を断れば、その時点でゲームは終了となり俺の勝ちとなる。
だが、問題がある。
踏み込んだ質問をしたことにより、相手は俺がゲームを終わらせようとしている事に気がつき、この次のターンにとんでもない要求をしてくる可能性があるといったことだ。
それにその要求の後、俺の要求を断り、ゲームを終わらせる事も彼女は出来てしまう。
そうすれば俺の敗北となり、その上に情報すら手に入らなかったことになる。
こんな未来があり得るが、俺はこれ以外の手段を思いつく事は出来なかった。
さて、彼女はどう動くのか。俺はじっと相手を見つめる。
「分かりました。ひとまずこの勝負が終わり次第邪魔しない事を認めます。では次は私のターンですね…それにしてもその要求は、終わらせにきたとしか考えられませんね。つまりはこれが、私の最後の要求になるかもしれないわけです」
「別に決めにかかったとも限らないだろ。俺はまだまだ続けるつもりだ」
まずいな、やはりバレてしまっている。
「恐らく次に貴方が私に要求するものは、何らかの情報を提供しろと言ったものでしょうから、それよりもハードルの高いものを要求して、その要求を潰すと言った事も出来るわけです」
「そう思うならそういえばいいじゃないか。俺が止めることはない」
強がりを見せてみるが完全に相手のペースに飲まれている。一体何を要求してくるのかと、俺は固唾を飲んで相手を睨みつける。
「それでは要求します。私とキスして下さい」
「……意味がわからないな」
俺は足をガタつかせながら、要求を問返す。
「ですから私とキスして下さい。唇と唇を合わせるだけの、簡単な行為ですよ?」
「お前は、そう易々と唇を男に差し出してもいいのか? 俺は敵なんだぞ?」
「憎い敵だからこそ、負かせてやりたいのです。散々イキリ散らかしていたその顔を歪ませてやりたい、そういった私の一種の癖のようなものです」
何とも憎たらしい笑みを浮かべながら、彼女は恍惚とした表情を浮かべていた。
彼女はいわゆるサディストといったものなのだろうか。だから彼女にとって、あの時の敗北は屈辱的であり、俺はあの時から負かしてやりたいターゲットとなっていたわけだ。
「お前、性格が悪いとよくいわれないか?」
「言われませんとも、私は逞しい騎士として見られておりますのでね。さて、どうしますか? 私とキスをすれば次は貴方のターンです。有益な情報を聞くことも可能でしょう、それなのにキスが怖くて逃げまてしまうのですか?」
煽りを繰り返す相手に、俺は久しくどうすることも思い浮かばずに、顔を歪ませていた。