第二十五話③
「後からとやかくいうんじゃないぞ」
「それはこちらのセリフでもありますよ。正々堂々と勝負しようじゃないですか」
急に面倒なことになってしまったと言った考えもあるが、俺はそれよりもコイツを負かしてやりたいといった闘志が燃えたぎっていた。
効率よく試合を進めていき、吠えずらをかかせてやろうとしているのだ。
「じゃあまずは手始めに私から、私の名前を呼んでください」
「……確か『アース・クレイア』……だったか」
「よく覚えておりましたね。では次をどうぞ」
「そうだな……俺のことを様付けで呼んでもらうか」
「そうそう、そのように進めていくのです。簡単でしょ? マヤト様」
「あーそうだな『アース・クレイア』これは実に楽しめそうだ」
こうして俺たちは少しずつかつ地味ではあるが、着実にゲームを進めていく。
だがこのままペースでは、かなり時間がかかるのはないだろうか。
「……次のターン、少しばかり要求を重くしてもらって構わないぞ。なるべく早く終わらせたいのでな」
「そうですか? 私としては勝利した際の気持ちを増幅させる為に、もう少し時間をかけても良かったのですが……分かりました」
どう言った要求を伝えられるかと思った最中、彼女はゆっくりと手を俺の前へと近づきながら、要求を口にした。
「握手をしましょう」
「……」
「どうかしましたか? 簡単な事のはずです」
俺はここでようやく嫌な予感を覚えて、自分が嵌められたことに気がついた。
なるほど、これがコイツの作戦だったのかと。
「断……」
「え、どうしてですか? 名前を呼び合うなどと言った口頭によるものから、身体に関わることに変えただけです。しっかりとルールに則って、要求を上げたつもりなのですが」
「お前、わざとやっているだろ?」
「……ふふふ、やはり私の予想は当たっていたみたいですね。貴方は、女性の体に触れる事が出来ない」
意気揚々と話す彼女に怒りを覚えたが、言い返す言葉が思いつかない。とはいえ否定しなければ自分の弱さを認めることになってしまう。
「そんな事はない。だから他の要求にした方がいいと思うがな」
「ではもっと激し目のものにしますか?」
「いや……遠慮しておく」
あまりに不穏な事を言われてしまい、仕方がなく手を伸ばした。
自分から触れにいくなど、今まで一度してした事がないというのに…。
予め言っておくが、俺は別に女が苦手なわけではない。本当だこれは本当に本当なのだ。
「はい、よく出来ました」
何とか彼女の手を抜けた力で握った後、勢いよく手を退かした。
男とは違った、少しばかり柔らかい手のひらの感触が僅かに手に残っている。
「ではマヤト様の番ですよ。早くしてください」
これは一刻も早く終わらせなければならない。
かと言ってここで無理な要求をして仕舞えば、俺の負けとなってしまう。
とはいえ中途半端に高い要求をしてみれば、それはそれで手を繋ぐ以上の要求を出されるかもしれない。
では次のターンで無理だと言って仕舞い、ゲームを終わらせてみればどうだろうか?
いやダメだ。まだ俺はコイツにこの場を去る事を許可させていない。ゲームが終わり次第、邪魔されるのがオチだ。
それに出来ればここで、有益な情報を手にしておきたい。
つまり、俺は我慢してこのゲームを続ける他ないみたいだ。