第二話③ アカリ視点
「全部思い出した」
私はそう口に出しながら座り込む。
この世界は私が前世でアリサと一緒にプレイした事がある『恋のシンデレラ』の世界だ。
そして私は、ヒロインのライバルである宿敵の悪役令嬢…こんな事、ある意味思い出したくはなかった。
「な、何を思い出したの?お姉ちゃん?」
辺りには、私を心配そうにしながら見つめてくる5人の男性たちいや、クラスメイト達がいた。
意識もはっきりとして、ここにいるみんなのことも、はっきりと思い出していた。
私を実の姉のように慕う幼い見た目の男の子は、私の両親と仲が良い貴族友達の息子さんで、数年前から交流がある。
他のみんなも幼馴染だったり、昔からの腐れ縁だったりで、随分と長い付き合いの人たちばかりだ。
「ごめんなさいみんな、心配かけたわね。でももう大丈夫、落ちた衝撃で記憶が混濁してただけだから」
「だけってお前、それは不味いことじゃねぇのか?」
「そうだぞ、一応医者にでも見てもらえ、俺が一流の奴を呼んできてやる」
「でたよこいつの一流発言、そこそこ名のしれた医者ならみんなレベルなんて同じくらいだろ」
「なんて事を、一流は一流だから一流なんだ」
「何言ってるかわかんねぇ」
皆は笑う。
彼らなりに先程起きた事によるショックを和らげようとしてくれているのだろう。
正直、崖から突き落とされた事に関しては、偉く動揺している。
というよりも腹が立つ、よくもやってくれたなと感じているのだ。
「ほら立てるか?手、貸すぜ?」
「いやお姉ちゃん!僕の手を!」
「いや俺の手だろ!」
「ここは私のを」
「じゃあ間をとって俺様だな」
皆はそう言って同時に手を出した。
本来、悪役令嬢である私は、物語で皆とここまで仲良くなる事はない。
皆に寧ろ嫌われ続け、最終的に学園を追放されるのが落ちのキャラクターだ。
それなのに今、こうして良い関係が築けているのは、私が通常取る予定だった、悪役令嬢としての行いをとらないでいたからだろう。
私は記憶がない中でも、ずっと前世での自分と同じような行動を続けてきた。
それが彼らと関係を築くにあたり、プラスになったみたいで、こうして仲良くやっていけている。
前世での友達、アリサやマヤなど、クラスのみんなが正直恋しい気持ちもある。
だけど、私は前を向かないといけない。
私は皆の手を抱きしめるようにとって、これからは今の人生を、今ある環境を大事にしていこうとこの時誓ったんだ。
――
「転校生の、アリス・ティアナです。皆様、どうかお気軽に、アリスとお呼び下さい」
あれから数週間後、アリスと名乗る生徒が転校してきた。
皆はこの時期に転校生が来るのかと驚いているみたいだが、私は知っていた事で、あまり驚きはしなかった。
なんせこのゲームを私はプレイした事がある為、大抵の世界の流れは理解できている。
悪役令嬢である私と彼女が仲良くなる事は難しいかもしれないが、何とか険悪な関係はならないようにしないといけない。
この時の私は、その程度にしか考えていなかった。
だけど、私はもっと、あらゆる対策を取っておくべきだっんだ。
――
「アリスちゃん。これ持つよ」
「女がこんな重いもん持つもんじゃねえよ、貸せ」
「ちょっと、それは私の役目ですよ!」
「うるせぇ!!俺の役目だっつーの!」
アリスが転校してきてから1週間後、皆はアリスの魅力の虜になっていた。
アリスの言動や行動、その全てが皆の心を射止めたらしく、皆はアリスにつきっきりとなり、私と一緒に過ごす時間は限りなくゼロに近づいて言っていた。
「お姉ちゃん……僕はずっとお姉ちゃんの側にいるからね」
「……ありがとう」
そう言っていたこの子さえも、今ではアリスにつきっきりだ。
私はこの5人としか交流がなかった為、1人での時間が増えた。
1人の時間は嫌いではないが、急に皆との時間がなくなると寂しいといった気持ちが溢れてくる。
――
そんなある日のこと、幼馴染に校舎裏に呼び出された。
校舎裏といえば、告白などのイメージがあるかもしれないけど、今はそう言った雰囲気じゃない。
何だか相手は思い詰めた表情を見せながら、口を開いた。
「俺さ……ずっとお前の事が好きだっていってて…婚姻の話もさ、したじゃんか?」
「うん。していたね」
「でもさ、やっぱりあれ……無しにしてくんね?」
こうなる事は、何となく予想はしていた。
私は5人からそれぞれ、婚姻の話や、いつか一緒になりたいなどの、告白まがいの事をされた事があった。
私としては、皆とはずっと友達でいたい為、やんわりと断っていたのだが、それでも皆んなは諦めを見せようとはしていなかった。
けれど、アリスが転校してきた事により、思いが揺らいだのだろう。
今は皆、アリスにしか目がない。
その為、次そのまた次にと、皆はあの話はなかった事にと行った話を、私に持ちかけてきた。
それだけなら良かった。
悲しいし寂しいけれど、友達として、皆んなの恋愛を応援していた。
それなのに、あの日事件が起こったんだ。