第二十五話②
「それではな、俺はひとまずこの場を離れる。お前のせいで目標達成ならずだ、飛んだ無駄骨だったな」
俺は悪態をついたのちに、帽子を拾って軽くはたった後、深く被り直してその場を去ろうとする。
「少し待て」
すると彼女は去ろうとする俺の腕を、素早く掴んで止めに入ってくる。相手は今手袋をはめている為、魔法は封じるつもりはないみたいだ。
「何だ、俺を倒してもろくな事がないのはわかっただろ? まだ続けるつもりか?」
「その通り、まだ続けます。というよりも勝手に終わらせないでいただきたい」
面倒に思ったが力で振り払うことも出来ず、仕方がなく要望を受け入れて、相手を睨みつけるようにして視線を向ける。
「それで、何をするんだ? 魔法の勝負というわけにはいかないのだから、その他の何かだろ?」
「えー勿論です。先程貴方は、力の勝負でも何でも私に選ばせてやるからとおっしゃっていましたよね? ですから勝負の内容は私が決めさせていただきます」
そういえばあの場を何とかしようとするばかり、思わずそんなことを口走ってしまっていた。
何を要求されるのかと面倒になり、俺は頭を抱える。
「交渉勝負なんて如何でしょう?」
「交渉の勝負……何だそれは?」
聞き馴染みのない勝負内容に、俺は頭にはてなを浮かべた。
「ご存知ないですか? この国では盛んなゲームの1つですよ?」
「この国のことなど知らんな、一体なんだそれは?」
「何と言われましてもその名の通りです。互いに交渉を持ちかけて、相手にNOと言わせた時点で敗北となります」
「ならば簡単な交渉を続ければ、それが永遠に続くということになるのか?」
「そうならない為に、少しずつ要求するものを上げていくのです。例えば「握手をしてください」と言った要求の次は「ハグしてください」と言ったように続けていくのです」
「なるほど、要求のハードルを上げていくのだな……」
簡単なルールだが、何処か全てが曖昧だな…。
「だが要求を上げていくと言っても、上がったかどうかなど主観によるものだろうし、誰がそれを判断するんだ?」
「主観ではなく一般的な視点で見てどうかです。それくらいの指標はあるでしょう?」
「だが相手がごねないといった保証はないだろ」
「私はそんなことしませんとも…勿論貴方も、そんなつまらない事はしないでしょ?」
煽るようなことを言われて俺の中の闘志が燃え始める。
「ではこれに勝てば俺がこの場を去ることを許可してもらうぞ?」
「それも要求して下さい。そう言ったゲームなので」
ごもっともなことを言われて妙に腹が立ち、俺は騎士長に近づきながら睨みをきかせる。
それに合わせるように騎士長も前のめりになり、それをきっかけにゲームが開始した。




