第二十五話①
「おい……一度離してくれ、さもないと面倒な事が起こるぞ」
「…そんな脅しに屈するとでも?」
「数時間前の俺の魔法を忘れたのか? あれよりも厄介な事が起こるぞ」
すると騎士長は迷った様子を見せた末に、腕を離さないまでも力を緩めてくれ、俺はその腕を退かしてようやく解放された。
痛む首を軽く撫でながら呼吸を整えて、少しばかり距離をとった位置で彼女と向かい合う。
「出まかせではないのだろうな?」
「その可能性は多いにあるだろ。人を信用しすぎだ、馬鹿なのか?」
「では……私を騙したというのか?」
「可能性があると言っただけで事実だ。だから早く衣服を着て、魔法を封じる事をやめろ。さもなくば先程話した通り、面倒な事になる」
これは脅しではなく事実なのだが、彼女は衣服を着る素振りを見せようとしない。つまりは俺のことをまだ完全には信用していないということになる。
敵を簡単に信用しないということは、本来褒められるべき正しい行いではあると思うのだが、今回ばかりはそうはいかない。
「嘘を言っているのではない、それよりも他の方法を試すつもりはないか? 力比べでもお前の望むものでも何でもいい。ひとまず俺が魔法を使えるようにしてくれ」
「断る。お前は信用ならない」
俺は少しばかり焦りを感じ始めていた。
それはコイツに追い詰められているからでは決してなく、このままでは本当に奥の手が作動して、この場に到着してしまう。
もっと言えば、既に発動はしてしまっているだろう。それを一刻も早く俺の魔法で止めなければならない。
本来は余程の事態とラスボス戦に向けて作った品物だ。こんな下着姿の女のせいで発動したくはないのだ。
「頼む! 俺が誰かにものを頼むなど滅多にないことだぞ、お願いだから早く魔法を解放してくれ!!」
「その慌てよう……やはり嘘だったのだな卑怯者め。今度こそお前を絞め落としてやる!」
そう言って彼女は俺を倒して馬乗りになり、上にまたがり乗ってきた。
肋に騎士長の全体重が加わり、再び息苦しさが襲ってくる。いや……それよりも……。
「早く退け! 尻が当たっているだろ!!」
「お前は先程から妙なところを気にしているな。もっと戦闘に集中しろ」
「いいから退け! 早くしないと本当に起こるからな……いやもう手をくれだ、くそッ! こんなところで使用するつもりはなかったというのに!!」
俺が大声を上げたと同時に、俺の直ぐ隣になった壁が、勢いよく破壊されて砕け散った。
爆音が轟き、瓦礫と砂埃を撒き散らしながら現れたのは、まるで魔王のような容姿をした、1匹の化け物だった。