第二十四話②
「数時間ぶりですねマヤト殿」
「王国騎士長…あー、数時間ぶりだな」
俺は振り返りながら王国騎士長と目を合わせた。
少しばかり警戒をしてみせる俺に対して、何故か彼女はうっすらと笑みを浮かべながら、まるで俺との再会を喜ばしく思っているかのような態度を続けていた。
「こう言った再会は、数年越しにやるからこそ趣があると思うのだが……どうしてお前はそんな顔を浮かべているんだ?」
「私としては早く会いたくて仕方がありませんでしたのでね。まさか自分から再びこの城に赴いてくれるだなんて、思いもしませんでした」
「何だ? 俺にまたやられでもしたいのか?」
「まさか、その逆ですとも」
コイツはあれほどこっ酷くやられたというのにまだ懲りていないのかと、俺は溜め息を吐いて呆れた態度をとって見せた。
「出来れば見なかった事にしてもらいたいのだがな。正直、勝敗の見えている戦いに時間を割きたくはないんだ」
「勝敗が見えている? 随分と思い上がりが激しいみたいですね、どうして私がこの国の騎士長を担っているかも知らないで」
俺は理解が出来ず、言葉を返さずにただ黙って相手をじっと見つめる。
「知っていますかマヤト殿、この国は魔法が栄えていないのです」
「確かに魔法の世界だというのに、馬鹿みたいに剣を振るうものばかりだな。何か理由があるのか?」
「馬鹿がどうかはわかりませんが、剣を振るうものばかりだというのは事実です。この国のものは、遺伝的に魔法があまり上手く扱えないのです」
魔法の国とは言えど、やはり遺伝だの何だなと言った科学的な話は入ってくるのだなと、当然のことながら、そう言った事を俺はこんな場面で再確認する。
「そして皆は使えない魔法ではなく、筋力や戦闘技術を磨くようになりました。……ですが、筋力などでは魔法に太刀打ちする事など、敵う筈がありませんでした」
「…語ってくれたところ申し訳ないが、尚のこと俺の前で余裕を見せる理由がわからないな。ただの馬鹿なようにしか思えない」
すると突然、彼女が不適な笑みを浮かべたのと同時に、自身の防具を1つずつ脱ぎ始めた。何か思惑があるのだろうかと、俺は首を軽く傾ける。
「軽装に着替えて動きを早くするつもりか? その程度で何かが変わるとは思えないが………………は?」
俺が言葉を発している最中の事である。
彼女は防具を脱ぎ終わると、そのまま衣服にすら手を伸ばし始めたのだ。
ボタンを1つ1つ外しながら、衣服を一枚一枚丁寧に脱いでいく。
遂に壊れてしまったのかと、俺は慌ててしまうがあまり、まともに言葉を発する事が叶わなくなってしまった。
そんな俺を無視して、彼女は愛も変わらずニヤけた面を晒しながら話を続ける。
「私の剣技や筋力は騎士の中ではそこそこです。そんな私が騎士長になれた理由、それはこの力にあるのです」
「そんな格好になりながら真面目に話すな…お前は馬鹿か…」
「馬鹿ではありませんとも、こちらは真剣なんです……って、聞いていますか?」
話しているところ申し訳ないが、俺は目に毒だと思い、彼女から目を逸らしていた。
窓から反射して薄らと見えるが、コイツは殆ど下着姿になっている。頭がおかしい奴だ。構っていないで先へ進もう。そうしたところで、俺はようやく異変に気がついたのだ。
何度もその異変を解決しようとするが、どうする事も出来そうにない。コイツが原因なのはわかるが、コイツがどのようにしてこれを引き起こしたのか、それが皆目見当もつかないのだ。
「気が付きましたか? 案外感は鈍いのですね」
そう言って服を脱ぎ終えた彼女は、下着姿のまま胸を押し付けるようにして、背後から俺の首に腕を回し込んで、かなりの強さで抱きついてきたのだ。
甘い香りと共に、体を動かせないように足まで絡んで俺の体を拘束してくる。
日頃多少鍛えている程度の俺では、到底解くことは出来そうにないほどの怪力で、俺は苦しさのあまり惨めにも声を上げてしまう。
本来の俺なら直ぐに逃げる事が出来るのだが、それすら出来なくなっているのだ。
「何故だ…何故、魔法が使えない……!?」
「さぁどうしてでしょうか。解決できるまでに、意識が待てばいいですね」