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第二話② アカリ視点

「何?抜け出してきたの?」

「うんそうだよ?そ、ん、な、こ、と、よ、り!クラス会にくるんだって⁉︎」


 アリサは私の元へ駆け寄りながら、そんな風に叫んできた。

 相変わらず元気だなと思いながら、隣合わせて歩き出す。

 

「うん、そのつもりよ。だからこうして、今のうちに勉強してるの」

「いやったー!!これでアタシは当分元気だ!」

「貴方はいつも元気じゃない」


 するとアリサは喜びながら、私が手に持っていた参考書を不思議そうに覗き込んでくる。

 まるで未知の生物に遭遇したかのような表情に、私はアリサを不思議そうに見つめる。


「それって勉強の本?すごいなアカリは、学校終わってから勉強なんて考えたことないや!」

「いや、少しは考えなさいよ。高校生でしょ?」


 そんな他愛もない会話をしながら私たちは自分の家に向かって歩いていく。

 私とアリサは家が近所のため、いつもこうして一緒に帰っていた。


「それにしても、まさか来てくれるだなんて思わなかったなぁ。中学ぶりとかじゃない?集まりに来れるなんて」

「そうね、高校に入ってからは中学生の時と比べて、やるべき事が増えたから」


 アリサとは小中と学校が違ったが、家が近所だった為交流があった。

 よく私の家とアリサの家を行き来して遊んだものだ。


「まぁでもまたいつか、昔みたいに遊びたいね」

「うん、昔はよく遊んだものね。何だっけ?何とかってゲームを一生懸命クリアしようとしてた事とか、覚えているわ」

「『恋のシンデレラ』でしょ!子供向けのゲームだったけど面白かったよね!!」


 昔はよく2人で私の家に集まって、ゲームなどをして遊んでいた。

 その中でも記憶に新しく、思い出深いものは、アリサも口にしていた『恋のシンデレラ』という恋愛ゲーム。


 主人公のシンデレラが、王子様候補5人の男性に言い寄られるところから始まる恋愛ファンタジー。

 よく考えて話を進めようとする私と、直感で話を進めようとするアリサとで、意見がバラバラになりながらも、ハッピーエンドを見る事が出来たのはいい思い出だ。


「また一緒に出来たらいいな!」

「うん……高校を卒業したら、出来るかも……先のことになっちゃうけど」

「え!?ほんとに!?大学生になるのが楽しみってきた!!」


 アリサは健気に喜ぶ様子を見せる。

 こんなにもいい友達がいるのだから、もっと積極的に遊びに誘うべきなのかもしれない。

 だがそんな事を両親が許してくれるだろうか。

 いつもこう言った事悩んでは頭を抱えるを繰り返している。

 やはり何かを両立させると言う事は、難しいなと思ってしまう。


「大学かぁ。アタシ達もそんな事考える年なんだね」

「貴方はまず、大学に行けるように勉強しなくちゃだけどね」

「あーそこからか!…でもアタシが勉強したところで、大学になんていけるのかな?」

「やってみないとわからないわ。それに行きたいところがあるのかも問題だけど、何かないの?やってみたいこととか」


「うーん、強いて言うなら体を動かすのが好きだから、体育の先生になりたいかな」

「いいじゃない、とってもアリサらしいわ。なら目指すのは、体育系の大学ね」

「体育系の大学かぁ。なら勉強もそうだけど、もっと体を動かせるようにしたいな。その方が有利でしょ?」

「どうなのかしら、わからないけど、出来るに越した事はないんじゃない?」

「そうだよねそうだよね!!だったらアカリ!早速競争だ!ヨイドン!!」


 そんな事を言って、突如としてアリサは走り始める。

 突拍子のないアリサのこう言った行動には慣れている為、私はあまり驚きもせずに追いかける。


「ちょっともう、急に走らないで」


 私は走ってアリサを追いかけていたが、暫くして息も切れてきてしまい横断歩道前で立ち止まった。


 既に横断歩道を渡りきっていたアリサは私がいないことに気がついた様子を見せて、私の元へゆっくりと戻ってきていた。


「おーい!遅いぞアカリ!!」

「あんたが早いのよ」


 少し先で私に手を振るアリサの元へ向かおうとしたが、息が切れしてしまい、私はその場に立ち止まったままでいた。


「もう、仕方ないなぁ、今助けに行きますアカリ様!」

「来なくていいわ!」


 そんな下らないやり取りをしていた最中のことだ。

 アリサは私の元へ、横断歩道を走って渡ってきていた。


 この時、嫌な音が耳に入ってきたのを、今でも鮮明に覚えている。

 それは車のタイヤがアスファルトに擦れる妙に高い音。


 一体何なのか気になった私は、その音を辿り視線を向けると、こちらに向かってトラックが走ってきているのがわかった。


 横断歩道は間違いなく、歩道側が青色になっている。

 けれど、トラックはスピードを緩めることなく、こちらに突っ込む勢いで走ってくる。


 このままでは、アリサが轢かれてしまう。


 咄嗟にそう思った途端、私は叫んで体を動かし、アリサの方へ駆け寄った。


 この後の事はあまり覚えていない。

 気がつけば辺りは真っ赤に染まっていて、私は床に倒れ込んでいた。

 自分が轢かれたと言う事は、咄嗟にアリサを庇う事が出来たのだろう。


 目をぴくぴくとさせながら、私は何とか目を開くと、アリサが大粒の涙を流しながら私に何かを訴えかけていた。


 鼓膜がやられたのか、意識がはっきりとしていないからか、アリサが何を言っているのかわからない。


 ただ、口が動いているのだけはわかる。

 お、え、ん、と口をくり返し動かしている。

 短い言葉からか、何を言っているのかはすぐに理解出来た。


 アリサは「ごめん」と、何度も謝ってきていたのだ。

 助けるにしても、他にも方法があったのかもしれない。

 これでは、アリサに重荷をつけさせたまま、私はいなくなってしまう事になる。


 何とか最後の力を振り絞り、私は声を振るわせながら言葉を口にする。


「大好き」


 最後の言葉として相応しいのかはわからない。

 まるで恋人に送るような言葉を私は口にしたんだ。


「気にしないで」だとか「今までありがとう」だとか、そう言った事を伝えたいわけではなかった。

 これが最後だとするのなら、私はアリサに対する思いを伝えたい。

 友人として、恥ずかしくて今まで言えていなかった言葉を、最後だから伝えたのだ。


 アリサに言葉の意味が伝わったのかはわからないし、ちゃんと口に出来ていたのかすらわからない。


 けれどアリサは、苦しそうな表情を緩めて、少し微笑んだのがわかった。

 私はそのことに安心したのを最後に、息を引き取ったんだ。


 ――


「……なんか普通にいい奴で、面白みがないな」

「何よ、話を止めておいてその感想。もっとないわけ?感動しただとか何とか」


 相手は本当につまらなそうにしながら、私を見つめている。


「感動はないな。ただ俺は、これからお前がどのように落ちぶれていき、今のようになったのか気になって仕方がない」

「ほんっと、いい性格してるわね貴方。まぁでも、それなら期待に答えられそう、今からは殆ど、私の不幸話だから」

「そうか、それは楽しみだ」


 途端に笑顔になる相手を見て、寧ろ分かりやすくていいなと思いながら、私は話を続けた。

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