第二十一話②
俺たちは窓際近くに出現させた巨大な手に向かって走り出す。
兵士たちは腰を抜かしたりだとか、足を振るわるなどしており、とても俺たちを止めれるような状態ではなく、ただ俺たちを見つめる事しか出来ない様子だった。
「止まれ!」
こんな一方的な状況にも関わらず、勇ましく堂々と俺たちの前に立ち向かってくる者がいた。
やはりと言うべきか、それは兵士を纏める立場にある王国騎士長であり、剣を握りしめながら立つその姿は英雄を思わせるものだった。
「やはり勇敢だな、この場で動いているのはお前だけだぞ。……いや、考え方によってはお前が勇敢なのではなく、他が腰抜けだとも言えるがな」
「黙れ! あんな大魔法、事前から仕組んでいたに決まっている、この卑怯者めが!!」
「言いがかりだな。俺ならあれ程の魔法など、直ぐに使用できる。俺の実力を見誤ったお前の失態だ」
それは当然ではあるのだがな。
俺のこの魔法は生まれながらに得ていたものでもなければ、苦労の果てに手に入れたものでもない。
そんな俺の実力に気がつけという方が無理だというものだ。
しかし、だからといって俺は相手の事を知りもしないのに舐めた態度をとる者を良しとは思わない。
こいつの態度が気に食わないのは、依然として変わらないのだ。
「そこを退け、俺たちは通りへ帰る。交渉は決裂した…と言うよりも、最初からここの国王は交渉などするつもりはなかったみたいだしな」
「そんな言い分が通用する筈がないであろう。お前達は王を殺害しようとし、国の誇りである城を傷つけたのだ。万死に値する」
そう言った王国騎士長の姿は、怒鳴るわけでもなく物に当たるわけでもないのに対して、ただじわじわと怒りが身から染み出しているように見えていた。
王国騎士長はゆっくりと構えをとりながら、俺に殺意を向けながら睨みつける。
先程まで俺など眼中になかった筈だと言うのに、随分と注目を集めてしまったものだ。
「パンプキン、下がっていろ。お前が手を出すよりも、本来部外者である俺が戦った方がいいだろうしな」
これは建前だ。俺は単にこの女が気に食わないから、少し懲らしめてやろうとしているだけなのだ。
「後悔するなよ……マヤトとやら……」
そう言って王国騎士長は目にも止まらぬ速さで動き始め、左右に身を移動させた後に姿を消した。
と言うよりも、俺の目では彼女の速さに追いつけない。
何処から現れるかもわからないまま、俺はただ立ち尽くしていた。
すると突然、奴は俺の目の前へと現れた。
あたかも最初からそこにいたかのように、冷静かつ慎重に剣の向きを整えて、俺の肩から腹にかけて剣で切り裂いてきたのだ。
してやったと言った顔を向ける王国騎士長であったが、その後直ぐにその顔は無惨にも崩れ去ってしまう。
俺の体からは出血は愚か、傷の1つも付いていなかったのだ。
それもその筈、剣で切り裂こうとしてきたその瞬間、俺は直前にその剣に魔法を仕掛けてやったのだ。
「急にどうしたんだ王国騎士長、プロポーズか何かか?」
騎士長の持っていた凛々しい剣は、花束へと姿を変えていた。
側から見れば、王国騎士長が俺の胸に花束を押し付けているようにしか見えないだろう。
殺伐とした戦いのワンシーンから、剣が花束に変わるだけで、ラブロマンスなシーンへと変貌するのだから、視覚情報と言うものは大きな物だなと思い、鼻で笑って見せた。




