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第一話⑤

「あの方達と、パーティを解約した?それはまた、どうしてですか……マヤト様?」


 俺の話を聞いて、綺麗な顔を少し曇らせながら、王女様は俺に質問を投げかけてくる。

 

「追放されたんだ。どうやら俺との冒険は楽しくなかったらしい」


 俺はパーティを追放された後、いつもの通り無断で王宮内へ玄関から入り、そのまま王の間へやってきていた。

 やけに広い空間の奥で、王女様はとても高い位置にある豪華な玉座に座りながら、俺との会話を続ける。


「あの方達はとても良い方達です。そのような……言うなれば雑な理由で、仲間を追放したなんて考えられません」

「俺も未だに信じられない。だが、事実としてそれが起こってしまった以上、受け入れるしかないだろ?」


 どうも会話に違和感がある。

 俺はてっきり、「あーなんて可哀想なマヤト様」と慰めてくるとばかり思っていた。

 同情して欲しいわけではないのだが、自分の思っていた通りに展開が進まないと、調子が狂ってしまう。


「……何をしたんですか?」


 このとても端的かつ短い発言で、俺は嫌な予感が確信へと変わる。

 今の発言と彼女の蔑むような表情、突如としてパーティを追放された、世間的には見れば可哀想なこの俺を、まさか疑っているのか?


「何をしたと言われてもな。普段皆で話している通りだ。今日も大型モンスターを討伐してだな、、、」

「いえ、やはり話さなくて結構です。よく考えれば、話を聞いたところで何かが変わるわけでもございませんので」

「……どう言う事だ」

「実は最近、貴方に対して不信感を抱いていました。これは失礼な事だとも思っていましたが、パーティを追放されたとなると、私の勘は正しかったのかもしれません」


 こいつは何を言い出してんだ?

 俺に対して不信感?それはどう言った意味だ。

 

 俺の持つ圧倒的な力などを見て、それは一体どのような手段で手に入れたのかなどの、疑問が生まれたのだろうか。

 だが、仮にそうだとしても、別にこの力を悪用した事は一度もないのだから、そこまで気にする事でもないんじゃないか。

 

 この国の為、世界のため、そして何より俺自身の為に、俺は良い行いをしてきた。

 それなのに不信感などを覚えるのは、あまりに俺に対して無礼だと感じる。


 だが俺は冷静さを崩さずに話を続けた。

 王女様も馬鹿ではない、話せば何とかなるはずだ。


「なぁ王女様。もう少しだけ冷静に話をしないか?」

「出ていってください」

「…俺たちは一応婚約者だろ?」

「そんなもの、怪しい貴方を監視する為の嘘に決まっているじゃないですか。しつこいようでしたら、どうなっても知りませんよ?」


 そう言って辺りにいた兵士たちが俺の元へ一歩近き、俺に刃先を向けるようにして、槍を構えてきた。


 パーティの時にはあまり感じていなかったが、今ははっきりとある感情が湧いてくるのを感じた。

 

 俺は今、間違いなく怒っている。


 だが俺はそれをそっと飲み込み、ゆっくりと何も言わず、その場から去っていった。




 俺はその後数日何もやる気が起きず、そこそこ良い宿屋で食っては寝床につくと言った事を繰り返す。言わば引きこもりのような暮らしをしていた。


 せっかく異世界にきたのに何をしているのかと考えを改め直すのに暫く時間がかかったが、俺は次第に外出を増やしていった。


 けれど、外出する度に、何か違和感のようなものを感じるようになっていた。


 そしてその違和感の正体が、皆の視線である事に気がつくのに時間はかからなかった。



 数日前までは、俺を優秀な冒険者として、尊敬の眼差しを向けていた町の人たちの目線が、明らかと言って良いほどに変化していたのだ。


 言葉に表すのは難しいが、言うなれば小馬鹿にしているような、軽蔑しているような、そんな自分よりも下のものを見る目を、皆は俺に向けていたんだ。


 これは自分にとって、人生で一番の屈辱と言っても良い。


 これ以上プライドを傷つけられたくない俺は、いても立ってもいられず、人気の少ない道にいた冒険者の首根っこを掴み、少し強引ではあるが壁に押し当てて、事情を聞くことにした。


「なぁ簡単な質問なんだが、どうして皆んなはあんな視線を俺に向けてくるんだ?俺の顔とはいわず、何処かに変なものでもついているのか?」


 相手は怯えてしまったのか、震えて中々口を割ろうこしない。

 このやり方は失敗だった。恐らく俺に向けられた視線は、俺を馬鹿にするようなもので、それをこんな状況で口にする事は出来ないのだろう。


 俺は相手の緊張を解くために手を話して自由にし、威圧する事をやめて会話を続ける。


「……本当に大丈夫だ。何もしない。ただ、このまま何も話さないなら、何かしなければならなくなってしまうかも知れない」

「なっ!!わ、わかった、話す!話すから落ち着いてくれ!!」


 やはり今の俺は、少し怒ってしまっている。

 相手のこの発言と怯えようで気がついた。どうやら俺は今、酷く怒った顔をしているみたいだ。


 俺は顔をマッサージするようにこねくり回して、何とかいつもの顔へと戻し、相手に再び問いかける。


「それで、質問の答えを教えてくれ」

「……あ、あんた、あの有名パーティのメンバーだったんだよな?結構ブイブイ言わせてるみたいだったが、その……追放されたんだって?」


 少しニヤけ気味で笑う相手に腹を立てたが、いちいち反応していては話が続かない。

 俺は何も言わずに相手の話を黙って聞き続ける。


「そ、そんでもって、王女様からは婚約破棄されたそうじゃねぇか。…今まで散々イキリ散らかしてたやつがよ、落ちるとこまで落ちたら、そりゃ皆んな馬鹿にするに決まってんだろ」


 そう言った後、相手は遂に我慢の限界だというように、大きく口を開けて笑い始めた。

 意図せず相手に笑われると言う事は、自分にとって何よりもの屈辱だった。


 俺は相手に何も言葉返さずに、そのまま何も言わず人気の多い通りへ出た。


 その先で待っていたかのように、皆は俺を視線に入れ次第、ニヤリと笑みを浮かべ始める。

 子供を見るような優しい微笑みではなく、誰かの失敗を影で小馬鹿にするような、そんな笑みを浮かべていた。


 どうしてこんな事になったのか。

 俺の態度がいけなかったのか?力をひけらかしたのがいけなかったのか?

 いや、今述べたもののどれかが原因だとしても、俺は現状に納得がいかない。


 少なからず俺は、この世界の為に動いてきた。

 女神のいう通り、この世界を救う為の行動を進めていたのだ。


「ふざけやがって……俺はただ、世界の為に!!!」


 そんな馬鹿げた言葉を町中で叫んだ。

 流石に気味が悪く思ったのか、辺りにいたものたちは笑みを消して、俺を避けて先へと進む。


 そんな時だ。

 俺の直ぐ後ろで何か大きな声が聞こえてきた。


「私はただ、真面目にやってきただけなのに!!」


 自分の心と共鳴するような、そんな言葉を叫んでいるものが身近にいた事に、偉く驚いた。

 俺はそんな相手を一目見ようと、急いで後ろを振り向いた。


 相手は俺と感覚が繋がったのかと思うほど、同時にお互いの顔を確認するように振り向いた。


 ボロボロになった奇抜な紫と黒色のドレスを見に纏い、少年のように顔を泥で汚した女性が、そこに立っていたんだ。

 

――


「それがお前ってわけだ」


 俺は相手の顔をじっと見つめる。


「……貴方、以外と可哀想ね」

「同情なんて求めていない」

「つまりはあれでしょ?パーティを追放されて、王女様から婚約破棄されて、その上国民からの信頼も無くしたって事でしょ?」

「あーそうだよ」

「……まぁ、大丈夫よ。これからはきっと良い事があるわ。それに、お金はあるんでしょ?ならきっと何とか、、」

「いや、俺は基本的にあるものは使ってしまう人間でな。貯金は使い果たしてしまったし、この国では信頼を失ったから、クエストの申請も通らなくなった。当分俺は一文無しだ」


 気まずい静寂が、暫く続く。


「もう良いだろ、今度はお前の番だ。愚痴りたいんだろ?さっさと話を始めろ」


 急かすような俺の発言に、相手は慌てる素振りを見せた後、一度大きく呼吸を整えて口を開く。


「……わかったわ。なら私も貴方と同じく、1から話す事にするわ」

「いや、なるべく短くしてくれよ」

「勝手な男ね。ならなるべく簡潔に話すけど、後から質問とかしないでよね」

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