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第十五話②


「まぁ仕方がないわね。諦めなさいマヤト。せめて布団は被せて上げるから、ベッドの直ぐ下で眠りなさい」

「何故俺が床で寝ることが決まっているんだ?こんなにも広いベッドなんだ。2人で寝れば、、」

「絶対に嫌よ。貴方は私の仲間で、恋人じゃないわ」


 試しに提案してみたが、思っていたよりも強く拒絶されてしまった。

 わかっていたつもりだが、何だかここまで強く断られると無性に腹が立ってくる。


「ならばわかった、ここは公平にいこう。勝負をして、負けた方がベッドを譲り、床で寝るんだ」

「え? まさか女の子を床で寝かせるつもりなの? 無条件で私に譲りなさい、そんなだからモテないのよ」

「それとこれはだな…嫌今はいい。それよりも俺たちは仲間だろ? やはり公平にしておくべきだ」


 そう言って俺は、おもむろに拳を突き出した。


「何かと思えば暴力かしら、公平という言葉を一度辞書か何かで調べ直してきなさい」

「そうじゃないジャンケンだ。…どうしてそんな野蛮な発想が出ててくるんだ」

「相手が貴方だからよ。……全く仕方ないわね。その代わり、後でぐちぐち文句言うんじゃないわよ」

「それはこっちのセリフだ」


 アカリも渋々拳を前に突き出し、俺と拳を向かい合わせた。

 俺たちは「じゃんけん」と言ったのを合図に拳を持ち上げて、「ポン」と言った掛け声と同時に拳を振り下ろした。

 決着はこの1回で直ぐに着くことになる。

 俺は指を全て広げているのに対して、アカリは指を1本たりとも上げていない。

 つまりはパー対グーで俺の勝利となった。


「やった…やったぞ!! まさか俺が勝てるとは思ってもみなかった。負けてコイツに馬鹿にされるのがオチだと思っていたが、こんな幸運もあるんだな!」


 予想外な展開に、俺は柄にも無くテンションを上げながら声を荒げてそう叫ぶ。

 アカリは悔しいのか悲しいのかよくわからない顔を浮かべているが、それがまた嬉しくて仕方がない。

 彼女を負かしたのは冒険を始めて以来、初めてのことじゃないだろうか。

 

 とても気分がいい、今となってはありきたりな表現だが、踊り出してしまいそうになるほど喜びが溢れていた。


「……ん? 俺は今勝利に酔いしれているんだが……そう言った奇行はやめてくれないか?」

「奇行? これは今夜貴方が朝まで見ることになる光景よ。現実を受け止めなさい」


 アカリはそう言いながら、ベッドの直ぐ下で横たわっていた。

 それも俺に見せつけるかのように、「本当に女の子を床で寝かせるつもり?」と言わんばかりに、じっと俺を見つめてくる。


 俺はそれを見ながらベッドへと近づいて、ゆっくりと座りながらアカリを見下してこう告げる。


「ここで譲れば、俺がそうなるという事だろ? いやぁ本当に良かった。そんな悲しい姿にならなくて」


 そう言って俺はベッドに横たわった。

 このまま寝て仕舞えばどれ程気分が良いだろうか。

 目覚めもこれまでにない程いいものになると確証が持てる。

 するとベッドの下からボソボソと声が聞こえ始めた。

 

 耳を澄ませて聞いてみると、それが何かを提案していることのだと気がついた。


「別に……別に……その広さなら、2人で寝れるじゃない」

「……いやいや、お前がそれは最初に拒否したんだろ。何を今更」

「その広さなら、実質2人で横になっても同じベッドで寝た事にはならないんじゃないかしら?」

「……何を言っているんだ?」

「どんな部屋にも1枚の壁を隔てれば、それはもう部屋を仕切って2つの部屋があると言えるようになるじゃない? このベッドにもそれをすればいいのよ」

「……つまりはこのベッドの中間に壁になるようなものを置けば、2人ともこのベッドを利用できると?」

「そう、その通りよ。どうかしら?」

「俺のメリットは何だ?」

「夜な夜なベッドの下から眠りの邪魔をされる危険性を無くす事が出来るわ」


 まさかこのような状況になっても脅されてしまうとは驚きだ。

 こいつはそんな事をするつもりだったのかと睨みつけた後、俺はある提案をする。


「これは貸しだ。それならいいぞ」


 アカリは眉間をぐっと寄せて、嫌な顔を絵に描いたような表情になる。

 だがその顔を維持したまま、渋々彼女は頷いた。

 夜はとても冷える為、余程ベッド下で眠るのが嫌だったのだろう。気持ちはわかる。

 

 結果的に勝利気分が薄まってしまうが、コイツに仮を作れた事はかなり大きい

 きっと役立つ時が来るだろう。

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