第十四話②
「先ずはあの店に寄ったらどうだ? 1番近い場所にあるし、何よりも空いているだろ」
「そうね。『先ずは』この店にしましょ」
アカリは含みのある言い方をして、直ぐ近くにあったキャンディなどが売っている屋台に足を運んだ。
一体何店舗回るつもりなのかとため息を吐いていると、早速商品を買ってきたアカリは俺の口に棒状のキャディを口に突っ込んできたのだ。
「私の奢りよ。有り難く堪能しなさい」
相変わらず生意気だなと思いながらもキャディはとか初めて、口に甘い味が一気に広がる。
砂糖のような甘みでは無く、果実から取れるような豊満な甘みに口の中を満たさせる。
チョコのような甘さが嫌いな俺だが、これなら楽しめるなと思い棒を手に取って味わっていると、アカリはバリボリと大きな音を立てながら、キャンディを噛み砕き始めた。
「予想外だ……お前は味合うタイプだと思っていたが」
「普段はそうね。ただ今日は少し急いでいるから仕方のない事だわ。次を目指すわよ」
普段の俺は、彼女と同じく噛み砕くタイプなので悪く言うつもりはないが、何となくイメージとして噛み砕いたりなんかしたら、「しっかり味わいなさいよ!」とつっこんでくると思っていた。
だが案外そうでもないらしい。
――
結局その後、10分足らずで10店舗も周り、俺は少し休ませてくれと伝えて、すぐ近くのベンチに倒れるような勢いで座り込んだ。
「はぁ……正直、着いて行けないぞ。いつにも増して、テンションが高すぎる」
「そう?私は至って平然よ」
「ならその両手に抱えたお菓子の山を今すぐ返してこい。その量は正気の沙汰とは思えない」
「自分基準で物事を考えすぎよ。ほら見てみなさい、他の人たちも同じ程の量を持っているわ」
「俺の視力がもう少し低ければ誤魔化しが効いたかもしれないが、そうはいかないぞ。どうみてもお前の量は異常だ」
辺りにいる人たちも、確かに多くのお菓子を抱えているが、それと比べてもアカリの抱えている量はあまりに多く、倍近く持っているのではないかと言ったほどだ。
俺なんて片手で収まるほどしか持っていない。
これは俺が甘いもの嫌いだからと関係してくるかもしれないが、それでも俺の方が一般的な量に近い。
「楽しんでいますか2人とも?」
するとそこに、平然とパンプキンが姿を現した。
何の足音も気配も感じさせず、急に現れた事に驚いたが、俺はそれにはリアクションを見せずに会話を進めた。
「見ての通りだ。俺の仲間が異常な程ここの菓子を気に入ったらしい」
「そのようですね。まだ祭りが始まって間も無いのに物凄い量です」
「こんなにも美味しいんだから仕方のないことだわ。初めての感情よ、お菓子と巡り会えた事に感謝したいだなんて思ったのは」
「…嬉しい限りです。通りのもの達が皆努力し、研究して作った最高の品々です。そう言ってもらえて、通りのもの達も皆鼻が高いでしょう」
そう言ってパンプキンは上機嫌で辺りを見渡す。
そんな動きのある素振りを見せたからか、辺りにいた人たちはパンプキンがここにいる事に気がついて、丁寧に挨拶を交わし始める。
そして子供達は飛び跳ねるなどして喜びを見せてパンプキンの元へ駆け寄ってきた。
皆がこの通りを愛しているのは祭りを通して実感していたが、どうやらこの通りだけではなく、この摩訶不思議な格好をした長も愛されているらしい。
何とも絵に描いたかのような理想郷、まるで絵本のような世界観に、俺は素直に感動していた。




