第十三話①
「お前は何をしているんだ?」
アカリを連れ戻す為に、苦労して長い時間通りの店を歩き回っていたのだが、当の本人は呑気に、良くもわからない小さな店で、皿を何枚も重ねるほど大量の食事を取っていた。
漫画のように積み上げられた皿があるのに対して、アカリは未だいつものペースで食事を続けている。
「あら、わざわざ私を探してきたの?」
「パンプキンが見つかったんだ。着いてこい」
「はいはい、わかったわ。それはそれとして、貴方もこれ食べてみなさいよ。今なら私が食べさせてあげるわよ?」
「パンプキンは既に自宅で待っているんだ。早くこい」
「いいからいいから。ケーキもそうだけど、誰かに食べさせて貰った事なんてないでしょ?これきりかもしれないわよ?今なら1度に2度お得よ」
いつにも増して機嫌がよく、上機嫌なアカリを面倒に思いつつも、俺は気が付かぬうちに席へと着いていた。
そう言った事は馬鹿ップルがするものだといった認識もあるが、やはり俺が見ていた作品にも、主人公がそう言った事をしてもらっている描写は多々見られた。
してもらえるのであれば、してもらおうじゃないか。
アカリは皿に乗ったケーキを一口大に切り分けて、俺の口へと運んでくる。
「はい、あーん」
「あ、あー…」
「そういうところよ」
少し戸惑ってしまった事を指摘され、黙れと言い返そうとしたが、ケーキが既に口入っていた為話す事が出来なかった。
そして何よりも味の感想だが、正直美味しいケーキといった感想しか出ない。
実際俺はそこまで甘いものを好まない為、そんな俺が美味しいと感じる時点でそれはかなり上等なものになるのだろうが、アカリがここまで上機嫌になるほどのものとは思えなかった。
「何というか……美味いケーキだな」
「嘘でしょ、これを食べてその感想?性格だけかと思っていたけど、下の出来も悪いのね」
「お前は甘いものを食べながら、どうして毒なんて吐けるんだ?」
結局こいつが満足いくまで待つことになり、俺はその後20分ほどをこの店内で過ごす事になる。
自分のことでの20分はあっという間だが、どうして人に待たされるとなると、こうも時間が経つのが遅く感じるのだろうか。
たかだか20分待っただけだというのに1時間弱程待たされた気分となっていた。
「あまり彼氏さん待たせたダメよ?」
「彼氏じゃないです。知人A程の関係値です」
おまけに酷い話も聞こえてくる。
何の嫌がらせなのだろうかとただただ気分が落ち込んだ。
――
「満足だわ。ご馳走様」
「あーそれは良かったな。それじゃあ早速だが向かうぞ。これ以上は待たせてられないからな」
「それにしてもよく見つけたわね。この通り、案外広いでしょ?」
「それはそうだな。探すのに多少なりとも苦労した。だが、偶然彼から話しかけてきてくれてな。何とか見つける事が出来たんだ」
「彼?確かMrs.だったわよね。彼女の間違いじゃないの?」
「…それについての説明も後にする。早く会計を済ませてくれ」
アカリは店主と早速打ち解けたようで、楽しそうに会話をしながら会計作業をしていた。
こう言った社交的な面は素直に感心しながら、じっと見ていると、アカリは笑顔を維持したまま、俺の元へと足を進めてくる。
「残念、お金足りなかったわ。差額、出してくれるかしら?」
残念なのはお前の倫理観だと口にしようとしたが、パンプキンをただでさえ待たせている中、言い争っている時間がないと考えた俺は、怒りを噛み殺しながら差額を支払った。




