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第十二話②

「すみません。ここってお菓子以外のメニューって……」

「ごめんなさいね。うちに限らずこの通りの店は皆、お菓子の販売しかしていないの」

「そうです……よね」


 僅かな希望すら失った私は、仕方がなくお菓子を頼むことにした。

 メニューを見てみると、どれもとても美味しそうに記載されているのだが、やはり今の私の気分とは合わないものばかりだ。


「何かお昼ご飯らしいもの、ランチなどが食べたいのよね?」

「まぁ…正直そうですね」

「そう落ち込まないの、ランチよりもこっちの方が食べたかったんだ!って思えるようなもの持ってくるから」


 そうは言われても、私は直ぐにその意見を飲み事はできなかった。

 けれど自身がありそうな店主さんのその言葉に、私は理解が出来ていないまま「それでお願いします」と注文をお願いしたのだ。

 果たしてどんな商品が来るのか。



 10分ほどが経過しただろうか。

 店主さんが調理を始めてからそれ程の時間が経過していた。

 私はすっかりお腹の空き具合が限界に達しており、体内には空気以外何も入っていないのではと錯覚してしまうほどになっている。


「お待たせ。ごめんね、遅くなっちゃった」


 そう言いながら店主さんは笑顔で食事をこちらへと運んでくれた。

 それはお皿の上に綺麗に盛り付けられたチョコレートケーキで、見た目は至って普通かつ、あまりトッピングなどはされていない事から少し質素にも見える。

 

 キャンディやクッキーと比べてお腹に溜まるものを用意していただいたのはありがたいが、これがランチを上回るほどの昼飯に値するとは思えない。


 だがそんな事を口にするのはマヤトのような人間がする事で、私は素直に感謝の言葉をかけた。


「ふふ、まだ気づいていないのにお礼なんて早いわよ。早速食べてみてちょうだい」


 気がついていないとは何のことかと私は首を傾げながらも、フォークを手に取ってそれを一口サイズにしながら口に入れ込んだ。


 風味はビターなチョコレートのようなもので、甘味を感じされるものではない。

 食感は少し弾力のあるスポンジ生地で、食べ応えは確かに感じられる。

 

 ただそんな事よりも、何か不思議な違和感を私は感じていた。


 あまりにも美味しいが過ぎる。


 これが現代にあったのなら、これを一度口にしたものは、生涯リピートをせざるを得ない程の味わい深さ、甘味を感じさせないが故に飽きが来ず、ずっと口の中で遊ばせていたくなる。

 これも弾力があるからこそ出来る事、本来のスポンジであれば直ぐに口内で形を失ってしまうが、これはそうはならずに、本来よりも長い時間味わい続けることが出来る。

 

 時間が時間とはいえ、私以外に誰も店内にいないのか不思議でならない。私はこのケーキを食べる為に半永久的にここに居座り、腹が減ったら胃にこのケーキを入れて、腹が減ってはこのケーキを入れてを繰り返して生きていたいとさえ思えてきている。


 この質素な感じがまたいいのだろう。

 余計なものを使っていないから味がごちゃつかずに、最もシンプルな美味しいといった感情が頭に伝わってくる。


「どう?美味しいでしょ?」

「……はい」


 私の語彙では、これがどれほどまでに美味しいのか説明する事ができず、ただ美味しい事を認める意外な事が出来なかった。


「この通りには、うちと張り合える程のお菓子が沢山あるのよ。また他の店舗も回ってきたらどうかしら」


 これまでこの通りの事を、ただの変な場所だと思っていたが、もしかしたら天国なのかもしれない。

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