第十一話③
「誰だ?」
「質問をしたのは私が先です。先ずは私の質問に応えていただきましょうか」
大きなカボチャの被り物に、ボロボロのドス黒いマント、そして手には大きなカボチャ型のバッグを所持しているといった何ともふざけた格好だ。
まるでハロウィンパーティでの仮装のようなそれを、相手はあたかも至極当然のように着用している。
「……Mrs.パンプキンに会いに来たんだ。だが……随分と会いにくるのが遅かったみたいだな」
「彼女が死んで、もう10年になります。貴方は彼女と面識があったのですか?」
「いや、俺ではなく知り合いの友達……知り合いかもしれない……いやもしかしたら一方的に知っているだけかもしれないが、そいつに言われて会いに来たんだ」
なるほどと納得した様子を浮かべながら、相手は軽く頷く。
「そのような理由でしたか。墓荒らしか何かかと思いましたよ」
「そんな真似するはずがないだろ」
「いやはや申し訳ない。彼女は有名人でしたからね。一方的に知られていたとしてもおかしな話ではありません」
「それで、結局お前は何者なんだ?薄気味悪い身なりをしているが」
相手は少しムッと機嫌を損ねる様子を見せたが、直ぐに元の冷静な態度に戻り、会話を進める。
「失礼な方ですね。これらは彼女から頂いた、大切なものなのですよ」
彼女から頂いた。
確かにこいつは今、そう口にしたのだ。
「彼女?……それはこいつのことか?」
そう言って俺は、墓へ視線を向けた。
「おっしゃる通り、私はMrs.パンプキンの後継者でありこの通りの長、【Mr.パンプキン】と申します」
そう言いながら相手はマントを靡かせる。
この通りに来た事は無駄足だったと思っていたが、もしかしたらそうはならずに済むかもしれない。
「後継者……そんなものがいたんだな。驚いたと同時に嬉しく思うぞ」
「当然です。この通りを終わらせるわけには行きませんからね。…それで、貴方は彼女にどのような用があったのですか?よろしければ私が力になって上げてもよろしいですが」
相手は出会って直ぐの時とは違い、少しだけ気さくな話口調でそう伝えてくる。
「……この世界について詳しいやつを探してるんだ。俺達はまだこの世界のことについて詳しくなくてな」
「この世界についてですか…何か訳ありのご様子、わかりました。私で宜しければご協力いたしましょう」
「随分とあっさり協力してくれるんだな。あまりに人が良すぎないか?」
「人に甘く、自分にも甘くが私の全うですので、よろしければいかがですか?」
相手はそう言いながらバッグからお菓子を取り出してそれを食べた後、俺にバッグを差し出してくる。
「あまりに怪しいが、食べても大丈夫なのか?」
「そう思われない為に、先に食したのです」
俺は仕方がなくカバンから菓子を取り出したが、ひとまず口にはせずに話を続ける。」
「協力してくれるというのならありがたい。だがこの町の長い歴史をせっかくな利用させていただきたい。他に詳しい奴がいればそいつらも連れてきてほしいのだが」
「それは…難しいですね。この町の歴史は長いですが、ここに住むものは皆、外に出たことがない方達ばかりなのです」
「お前は違うのか?」
「私はここを継ぐにあたり、この世界を知る旅にでましたから。この通りの方々が外の世界を知らずとも、平和に暮らせるようにね」
そう言ってパンプキンは墓の前に立つ。
「……彼女の思いも後継者として受け継いだのか?」
「半分正解です。この通りの平和を守る事は、彼女と、そして私自身の意思なのです」