第十話①
「まだ着かないの?…もう随分と歩いたわよ」
「何度口にするつもりだ。もう時期着くと言っているだろ」
「それも何回言うつもりよ。もう5回目よ!5回目!!」
町に辿り着いた俺たちは、早速目的地へ向けて出発していた。
だがそれから少ししてからの事、それが間違いだった事に気がついた。
時は金なりとはよく言うが、行動する事ばかりを優先して、支度する事を怠るべきではないと、今日改めて感じた。
金のない俺たちは馬車代をケチり、徒歩選んだのにも関わらず、飲食物などを何も持たずに出発したのだ。
バーグの説明を聞く限り、『パンプキン通り』とは、町から歩いて直ぐの場所にあるとばかり思っていたが、そうは行かなかった。
ちらほらと草が生えているだけの何もない道を、今で既に5時間はぶっ通しで歩いている。
地面がでこぼことしており歩きにくく、変に足に力を加えてしまい、歩くたびに足が痛んだ。
太陽は出ているが気温はそこまで高くない為、脱水になる事は無さそうだが、このまま歩き続ける可能性を考えると、思わず足を止めてしまいそうになる。
「ちょっと…あれ!!何か見えてきたわよ!!」
珍しくテンション高めにそう叫びながら、アカリはうんと腕を伸ばして先の方を指差した。
俯いていた顔をゆっくりと上げると、まだ昼間だと言うのに少し薄暗い、傾斜の位置に乱雑に家を建てたような、不思議な場所が見えてきた。
「何だあれは?あれがパンプキン通りなのか?」
「何でもいいから行くわよ。パンプキン通りじゃなくても、あそこで休めばいいわ」
本来寄り道を好まない俺は、この提案をいつもなら断っていただろう。
だがあまりの疲労により、俺自身も休息を取りたいと思ってしまい、仕方がなくアカリの提案に頷いた。
――
ようやく先程見えた場所が直ぐそこまで迫り、薄らとしか見えていなかった建物の姿や住人の姿がはっきりと見え始めてきた。
「何と言うか…個性的ね」
「あー…あえて悪く言うのなら、不気味だな」
その建物の配置の歪さと、外装のおどろおどろしさ、そしてその場所全体が何だかとても薄暗く、空を見上げてみると、不自然なほどこの場所にだけ雲が集まっていた。
「うーん……背に腹は変えられないわね。気にせず入るわよ。私はお腹が空いたの」
「そうだな。こんな事を恐れていたら、冒険なんてしてられないしな」
俺たちは朽ちた木で作られたような、今直ぐに崩れてもおかしくない、手作りで作ったような門を潜る。
「おーちょっと待った。君たちここを通るのなら、身分のわかるものを提示してもらわないと困るよ」
こんな場所でも門番がいるのかと驚きを見せながら、俺とアカリは冒険者カードを提示した。
わざわざ門番を建てている事を考えると、もしかするとバーグが言っていた王国というのはここのことなのかもしれないと思い始めてきた。
「なぁ、少し聞いてもいいか?」
「えー勿論。何でも聞いてください。はいこれ、お返ししますね」
「ここは『バルサッツ王国』か?もしそうなら『パンプキン通り』という場所が何処にあるのか知りたいのだが?」
俺は冒険者カードを返してもらいながら、そう問いかけた。
すると門番は何を言っているのかと言った顔を浮かべた後、何か理解したような態度をとってクスリと笑い始めた。
「嫌だな君は、揶揄っているのかと思ったよ。君たちの目の前にあるこの場所こそが、我らが愛すべき故郷【パンプキン通り】さ」
門番がそう言った途端の事、急に大きな鐘がなり始めた。