第九話③
「いよいよ今日が出発の日だ」
「と言っても、この島には1日しかいなかったけどね」
俺たちは目を覚ました後、支度を済ませて島を出る準備をしていた。
そんな俺たちの元に、まだ眠そうにしながらヒメノがゆっくりとこちらに近づいて来る。
「えー、もう言っちゃうの?」
よろつきながら俺の裾を掴んで、ヒメノは上目遣いでまだこの島にいるようにとどめて来る。
「仕方ないだろ、冒険を始めて直ぐに寄り道なんてしてられない。用が済んだのなら、直ぐに動かなければ……」
「でも、後1日だけ……とかどうかな?」
「すまないなヒメノ。どうせまた直ぐに会うんだ。気にする事ではないだろ?寝て起きたら直ぐだ」
「そうだけどね……」
話し合いの末、支度や心の準備、そして何よりヒメノは眠る必要があるとの事で、ヒメノと共に冒険に出るのは1ヶ月後となった。
それから毎月に1回の頻度で、冒険に同行しにやって来るらしい。
「クラウス様、仲間を困らせるものではありませんぞ」
「うん…わかってる。それじゃあまたね。マヤト、アカリ…また1ヶ月後」
「うん、それじゃあまたねヒメノ」
「あー、また会おう」
俺たちは返事をしてイカダへと向かう。
「なぁバーグ、ここから近い島は何処だ?出来ればあの町にはもう戻りたくないんだが」
「あの町以外となると……東に進めば岸に辿り着くが、ここから3キロはあるぞ?」
「3キロ!?そんなの、こんなイカダで行くなんて無理に決まってるじゃない!!」
「こんなイカダ?まぁいい……だがそうだな。このイカダでは少し心許ないか…仕方ない。一度元の町へと戻るか」
もう戻らないと言った町に早速次の日に戻ることになるとは、誰に責められるわけでもないが、とても恥ずかしく感じる。
「あの町に行くのなら、ついでにこの世界について勉強でもしようかしら、昨日色々とヒメノに教えてもらったけど、この世界のことについてはまだ今1つわかっていないし」
「それは難しいと思うぞ。あの町に勉強に向いている施設は完備されておらんし、第一歴史も深くない。調べたとしても大した情報は得られないだろう」
「ならあの町の近くで何処か歴史の深い、勉強に適した場所はないか?アカリが勉強するのに最適な場所を知りたい」
「まぁ私がこの世界の事を調べる担当だけど……その投げつけた感じは気に入らないわね」
するとバーグはある一点を指差したながら、説明を始めた。
「町に着いたらずっと西へと進め、そしたら『パンプキン通り』という場所に出る筈だ」
「通り?国や街ではなくてか?」
「国で言えば、『バルサッツ王国』の中にある通りで、すぐ隣にある『ディスラル帝国』と合わせて見ると、丁度中間ほどに位置している」
「そのバルサッツ王国で聞いてはいけないのか?」
「いけない事はないが、まだその国は建国してから30年ほどしか経っていない。それに対して、『パンプキン通り』は今年で100年を超える歴史深い場所だ」
国よりも長い歴史がある通りとは一体どう言った事なのか、『パンプキン通り』何ともよくわからない場所だが、それが故に好奇心が刺激される。
「それにそこには、Mrs.パンプキンと呼ばれる女性がその通りの長をやっている。彼女は通りが創設された当初からそこにおるものだ。きっといろんな事を教えてくれる」
「わかった。ならひとまずそこに向かい、Mrs.パンプキンという奴を探す事にする。色々世話になったな」
「例には及ばん。不敬な態度をとった事を謝罪してもらえればそれで良い」
「そんな事をするつもりはないな」
俺たちはグッと睨み合った後に、少しほくそ笑んでお互い顔を逸らした。
「それじゃあ出発するわよ。かじは任せたわマヤト」
「言われなくてもわかっている。……それじゃあなヒメノ、バーグとその他大勢」
「うん……また1ヶ月後に」
「俺たちの扱い悪くないか?バーグ様」
「馬鹿者の言葉だ。気にするな」
俺たちは互いに手を振りながら、海へと乗り出した。
徐々に見えなくなっていったが、ヒメノが大きく手を振っている姿は長い間確認できており、俺は仕方なくそれに返事を返すように、手を振り続けた。