第九話②
「いやー思っていたよりも美味かったが……どうやって作れるようになったんだ?お前らの味覚では、この味の良さはわからないだろ?」
「それは長年、クラウス様の様子をじっくり見て判断していたのだ。少し辛そうな顔をしたのなら塩を減らして、味が薄そうな顔をしたのなら、調味料を少し増やすなど、長年の研究の賜物だ」
「…そうか」
バーグや、周りにいる夢喰い族にも言えることだが、皆ヒメノの事を話す際に尊敬の念を表しつつも、何処となく優しい顔になり、我が子の事を話すような温かい表情になる。
皆のヒメノに対する親心のような感情を見て、少しばかり心が温かくなった。
――
少し皆で休んだ後、アカリはあくびをしながらゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ私はそろそろ寝るわね。今日一日随分と動いたから、もうクタクタよ」
「そうだな。まだ少し早いが、眠る支度をするか」
「じゃあ2人とも、アタシと一緒に寝る?あの木の中なら3人くらいなら寝られるよ?」
そう言ってヒメノは自身の布団を叩いて、こちらにくるように誘導してくる。
だがそう言うわけにも行かない。
「いや……俺は遠慮しておく」
「ヒメノさん忘れたの? コイツは女の子の体に触れたら死んじゃうのよ?」
「そっか!そうだったね!」
「何も死にはしないがな……」
結局アカリとヒメノは共に木の中の布団で寝る事となり、俺は先日と同じく野宿となった。
「よいしょと」
「何をしておる?そこを退け」
俺はバーグの腹をベッド代わりにしようと、ブランケットを持ってよじ登っていた。
「ケチケチするなよ。お前の上で寝たところで、この脂肪が減るわけではないだろ」
「これは脂肪ではない。全て筋肉だ」
そう言って力を込められてしまい、俺は地面へと転がり込んだ。
結局床で寝る他なくなった俺は、硬い地面に文句を言いながら横になり、何とか眠りにつけるように目を瞑る。
草のざらつきや、何処からともなく聞こえてくる虫の音が少し気になるが、木々のせせらぎや時々吹く小風が案外心地よく、何とか寝れそうになっていた。
「おい、マヤト。起きているか?」
「何だこんな時間に?せっかく眠れそうになっていたというのに、恋バナでもしたいのか?」
「そんうではない。ただ1つだけ頼み事をと思ってな。出来れば今のうちに話しておきたい」
バーグのこの言葉を聞いて、まず俺は意外だなと感じた。
バーグはプライドが高いが故に、俺に頼み事などは何があってもしないと思っていた。
だが考えてみれば、バーグが何を話そうとしているのかは、直ぐにわかった。
きっとヒメノの事だろう。こいつが俺に頼み事をするのなら、きっとそれしかないのだ。
「ヒメノのことだろ?」
「何故わかった!?」
バレていないとでも思っていたのか、バーグは柄にもなく慌てた態度を見せる。
「分かりやすいんだお前は、感情を隠す事があまりに下手だ。……それが悪い事だとは言わないが」
「そうか、バレてしまっていたか……。実はその通りで、クラウス様の事だ。彼女は今年で22になる。人間の年齢で言えば成人は超えていることになるわけだが、まだまだ彼女の心は未熟なままなんだ」
その話の前に、彼女が22歳だと言う事に驚きを隠せない。
確かに太陽の光を浴びた時は、途端に大人びた姿になっていたが、どれ程いっていてもまだ10代だという事には代わりないと思っていた。
「聞いておるか?」
「あ、あー聞いている。それで、ヒメノの心が何だって?」
「ヒメノ様の心はまだ未熟なのだ。知識があるが故に大人びた態度を取るが、未だ他人の悪意に触れた事がなく、きっとその点に疎い。警戒心は強いが、その分それが解けた時、直ぐに相手を信頼してしまうだろう」
考えてみれば、俺たちがそうだった。
最初こそは警戒されたが、その後は直ぐに打ち解けていて、アカリに関しては今や一緒の布団で寝ているのだ。
「だからヒメノと冒険する際は、彼女を守ってほしい……そう言うことか?」
「その通りだ。我は…失礼を承知いうがな、クラウス様を実の娘のように思っておる。子を持たぬ我だが、親心とはこの事なのだと知ったのだ」
そんな事はとっくに気がついているとちゃちゃを入れようとも思ったが、無粋だと感じ今回ばかりはやめておくことにした。
「…あのなバーグ。お前に言われずとも、俺のハーレムメンバーに入った時点で、ヒメノは何としてでも守ると決めている。心配するな」
「…信じても良いのか?」
「当たり前だ。アイツが今後、誰かの悪意に触れる事などありはしない。仮にあったとしても、それはきっと俺の悪意だろうな」
「そうか……それなら安心だな。お前が相手なら、直ぐに叱る事が出来る」
「言ってくれるな」
バーグに言われずとも守るつもりでいたのだが、こいつとの会話で、その意思がより強固になった。
だがこの事は、誰にも話すつもりはない。