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第一話③

「それではマヤト様。新たな人生を歩むことになる貴方に、ささやかながらお1つギフトを差し上げます。この中からどれか1つ、お選び下さい」


 異世界転生する事を承諾した俺に、早速相手は自身の周りに幾つかの用紙を用意し始めた。


 数えきれない程の紙が俺の周りを囲むように配置され、そこにはそれぞれ、能力と思われる物の記載があり、それの詳しい説明などが書かれてあった。


 試しに1枚取って確認してみると、丁寧に「1000年に一度の天才が、百年かけて手に入れる品物」だとか、その力の入手の難しさが書かれてあった。


 俺は暫くその紙を、1枚1枚丁寧に拝見していく。

 

 その中で俺は、最初こそ気分よく見ていたものの、ある疑問が頭をよぎり始めたんだ。


「迷いますよね。どれも素晴らしい力、殆どの冒険者が、死ぬまでに手に入れる事が出来ない境地なのです」

「あーそうだな。どれも素晴らしい力だ」

「そうでしょう、そうでしょう」

「だがどれも、世界を救えるほどのものじゃない」


 俺はそう言った後、手に持っていた紙を全て破り捨てた。


 自分の思っていた反応と違ったのか、相手は驚いた顔を浮かべる。


「何が不満だったのですか?」

「何が?全てだろ。どれもこれも一般人よりも少し強い程度のものばかり、本当に世界を救ってほしいと思っているのか?」


 紙に書かれていたものは、先程相手が話していた通り、どれも熟練の猛者しか手に入れられないものばかりだ。

 だが、そのどれもが人間の範疇からはみ出せていない。


 先程「殆どの冒険者が手に入れることが出来ない」と言っていた。

 つまりは、手に入れた者が数は少なくともいたと言う事になる。


 ならば何故、世界は救われていない?


 数は少なくとも、何人かは世界の為に動いた筈だ。

 それなのに今現在も、俺のようなものを転生させなけばならない状況という事は、その力では何にもならないという事に他ならない。


「ならば一体、何がお望みなのですか?」

「……この色んな力を見る限り、俺が行く世界には、魔法が存在してあるみたいだな」

「……はい。魔法は貴方の世界でいうところの、科学のような立ち位置になっています」

「思っていた通り重要なものなんだな。……ならその魔法、全て俺によこせ」


  相手は今日一番顔を崩した。

 怒っているのか驚いているのかわからないが、兎に角動揺しているのは確かだ。


「それは…出来ません。そんな事、出来る筈がないじゃないですか!!」

「出来ないではなくて、しなくちゃいけないんだ。魔王を倒さなくてはいけないんだろ?世界の為なんだろ?ならば思い切った決断も必要だ」


 このような会話が暫く続いた。

 俺はその間も、より強い力を手に入れる為には仕方がない事だと、この会話を苦痛なくこなしていたが、相手はそうもいかなかったみたいだ。


 次第に疲れが見え始め、やがて顔が真っ白になっていった。


「もう、分かりました。もう分かりましたから…その罵倒とも捉えれるような言葉を口にするのはやめて下さい。天使であるこの私の自尊心を、これ以上傷つけないで下さい」

「そんなつもりはなかったのだがな。だが納得してくれて助かった。これで俺の異世界ライフは素晴らしいものになること間違いなしだ」


 俺は早速転生する為に使用する、ゲートの前に立たされる。

 先程とは違って、今後の説明などを相手は全くと言っていい程してこない。

 それもその筈だ。俺も相手の立場なら、俺のような人間とはなるべく会話を交わしたいとは思わない。


「それではマヤト様、行ってらっしゃいませ…神の祝福があらんことを」

「あー後は任せてくれ天使さん。見てて爽快な無双劇を見せて上げますよ」

「全く先程から私に向かってそのような態度を…貴方のような人間は始めてです」

「それはそうだろうな。俺みたいな人間が、何人もいてたまるか」


 相手の嫌味混じりな意見に反論した後、直ぐに俺はゲートに入り、異世界に転生したんだ。



 その後の数週間は楽しかった。

 天使から半ば無理やり奪い取った力を使って偉業を成し遂げ、それで王女様に気に入られた俺は彼女と婚約をし、有名パーティの魔法使いとして入り、順風満帆な人生を歩んで、、、


 ――


「ちょっとストップ、そこは飛ばしてもらって構わないわ」

「あ?ここが一番盛り上がるところだろ?」


 話の途中だというのに、こいつは生意気にも話に割って入ってきた。


「第一天使も適当ね。結局貴方に全ての魔法を授けたんでしょ?めちゃくちゃじゃない」

「ん?あーそうだな。だが、あいつの気持ちもわかるよ。…先程俺は、暫くの間交渉を行ったと伝えたが、あれ、実際のところ何時間交渉したと思う?」

「……2時間とか?」

「正解は10時間だ。流石の天使といえど、もう嫌になったんだろうな」


 相手はドン引く素振りを見せた。

 それもそうだろう。まさか中身のない、殆ど俺の我儘を10時間も相手に聞かせていたんだ。

 自分でも思う、正気の沙汰ではない。


「それじゃあ話を続けるぞ。そうそう、俺が異世界ライフを楽しんでいた時のはなしだが、、」

「いや、それは話さなくていいわ」

「先程も伝えたが、ここが一番盛り上がるところだろ」

「そんな事ないわ。私は貴方がどうして不幸になったのか知りたいの、幸せだった時の話なんて、どうでもいいわ」

「……どんな性格してるんだ」

「あんたに言われたくないわ。それにこれは、貴方の不幸話を肴にしようとしてるんじゃくて、私も愚痴りたいから聞きたいの、一方的に愚痴を話すのは嫌だからね」


 先程は俺の過去を忘れただとか言っていたが、それは嘘であり、建前だったみたいだ。


「…そうか。なら早速不幸話を話すとしよう。胃もたれしそうになったら、言ってくれ」

「みくびらないで、私だってすごい話を持ってるんだから」


 俺は再び口を開き、数週間前の出来事を話し始めた。


 ――

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