第七話③
「わぁすごい、浮いてるよ!こんな事も出来るんだね!」
俺は仕方なく彼女を浮かせて運ぶことにした。
自分の体を使って運ぶなんて面倒だからな、彼女も喜んでいる事だしよしとしよう。
「え、貴方もしかして、女の子1人運ぶ事も出来ないわけ?」
するとアカリが突然、下らない難癖をつけてきた。
俺は冷静に、いつものように言葉を返す。
「うるさいな。俺はこっちにきてから鍛え始めたんだ。仕方がないだろ」
「んー?貴方にしてはやけに素直に認めるのね。……もしかして、この子に触れるのが恥ずかしかったから、だったりするのかしら?」
「…………何のことだ?早く行くぞ」
アカリが俺に何かを問いかけてきていたが、全て無視しながら木から離れて、バーグの元へと急いだ。
――
「おいバーグ!どうやって乗ればいい!!」
「少し待て!!今乗りやすいようにしておるだろ!」
バーグは地面に近づける勢いで頭を下げながら、俺たちが背中に乗りやすいようにしてくれている。
プライドが高そうなこいつがここまでするとは、何処まで彼女をたたえてるんだと思ってしまう。
「マヤト!…いつまで無視するつもりよ」
「別に無視などしていないだろ……早く行くぞ」
「恥ずかしいならそういえばいいのに」
俺たちはバーグの体を歩かせてもらい、背中へと登っていく。
アスレチックような感覚になりながら登っていき、やっとのことで辿り着いて背中に寝転がると、バーグの背中の心地よさに気がついた。
バーグの背中は他の夢喰い族と比べてもとても広く、そして何より柔らかい。
彼女を下ろした後その場に座ると、眠ってしまいそうになるほど、リラックスしてしまった。
一度高いソファを、家具屋で座ってみたことがあるが、それに引けを取らないほどの座り心地だ。
「良い座り心地だぞバーグ。褒めてやる」
「お前に言われたところで嬉しくなどない。黙っていろ」
「バーグいつもありがとね」
「いえいえ、お気になさらず」
既にこのやり取りにも慣れてきたところで、彼女はバーグに何処へ向かってもらおうとしているのかと疑問がよぎった。
その瞬間、彼女は「それじゃあお願いねバーグ」と声を掛けた。
するとバーグは勢いよく、その場で飛び跳ね始めたのだ。
体は上下に激しく揺らされて、振り落とされそうになってしまう。
「何をしてるんだ!!」
「そうよ!急にどうしたの!!」
「皆んなバーグをしっかり掴んでね」
「「え?」」
「しっかり捕まっておくんだぞ!!」
そう言ってバーグは力強く地面を蹴って、高く飛び上がった。
俺が先程魔法を使って飛んだ速さなんて比較にならないほどの速度で、木の頂上までたどり着き、バーグはそのまま木の上に立った。
「…あまり乗った事はないが、アトラクションというものは、こう言ったスリルがあるんだろうな」
「ここまでハードなものなんて、あるわけないでしょ」
俺とアカリは動揺しながら息を切らしていた。
終わってみたら楽しかったと言えるが、飛び上がった瞬間は、思わず冷や汗をかいてしまった。
「それじゃあ2人とも、お茶を用意するからこっちに来て」
そう言って彼女はバーグから降りて、自分の足で歩いていった。
先程動けないなどと言っていたが、あれは嘘だったのでは無いかと思うほど、軽快に足を動かしている。
俺たちは彼女についていくと、直ぐそこにカフェのテラス席のようなエリアが見えてきた。
決して開くはなく、5人ほどが囲むのが限界であろうテーブルが中央に置かれているのと、その他少し棚が置かれただけの場所だ。
けれど随分と雰囲気が良い、何ともオシャレで、尚且つ木の上ということもあって眺めがいい。
近所にあれば通ってしまいそうになる程、落ち着きのある空間となっている。
「珍しいな。ツリーハウスというものは聞いた事があるが、それに似た物を木の上に作るとは」
「本当おしゃれね。元いた世界でやれば人気が出そう」
「すごいでしょ、お気にいりなんだ。ささ、2人ともここに座ってね。バーグは申し訳ないけど、、」
「構いません。我はこちらで」
バーグはテラス席の直ぐそばに座り、俺たちの方へ体を向ける。
彼女は棚から何やら茶葉のようなものと食器などを取り出した。
「洗わなくていいのか?随分とここは使っていなかったんだろ?」
「大丈夫だよ。この場所そのものを見ればわかるかもだけど、ここは常に綺麗に保てるように、加護の魔法を掛けてるからね」
確かに辺りを確認してみると、利用していない期間が長いとは思えないほど、このエリアは綺麗に保たれていた。
木造の床やテーブルなど、埃や雨による汚れなども一切見みられない。
「そんなものまで……魔法って便利なものね」
「ほんとにな。そんな魔法初めて知った」
「…え?貴方全ての魔法を持ってるんでしょ?知らないなんてことあるの?」
「俺自身勉強中なんでな。どんな魔法があるのか大体は取得した際に理解したが、直ぐに思い出せない魔法や、知ったつもりになっていただけで、理解できていない魔法もある」
そんな会話をしている最中、彼女は茶葉をカップに入れて、お湯を注ぎ込んだ。
何処からお湯が出てきたのかも理解ができず、唯一理解できたのは、お湯を出している容器が木造で出来ていることだけだ。
またおいおい聞いてみることにしよう。
「はい、出来たよ。アタシ達伝統の紅茶何だけど、お口に合うかはわからないから、あんまりだったら残してね」
俺は礼を述べながらカップを受け取ると、彼女の容姿に変化があることに気がついた。
伸び切った髪は短くなっており、乱れていた毛先やうねりもなくなっている。
眠そうにしていた顔も少しばかり元気になっている気がした。
「……どう言った仕掛けだ?」
「あー髪の事かな?アタシって……まぁいいや、それも含めて自己紹介するね」




