第七十三話②
扉が開く音がする。
やはりアカリが帰ってきたみたいだ。
昨日の件で腹を立てて出て行ったわけではなかったのは良かったが、今すぐに会話を交わすのもまた難しく思えてしまう。
「マヤト、起きてるの?」
帰ってきてから真っ直ぐに俺の元までやってきて、顔の近くでそのようなことを言ってくる。
ここまで近づけば、起きているのかいないのかの区別はつくだろうに。
「あぁ……今起きたところだ」
嘘はついていない。眠ったままのふりをしようとしたことはバレたりしないだろう。
「ふーん……。なら話したい事があるんだけど、寝起きじゃまずいかしら?」
「いや、まずくはない……まずくはないが、何を話すんだ
?」
「わかってるでしょ、昨日のことよ。そのことについて深く考えるために、早起きして散歩してきたんだから」
そう言いながらアカリは向かい側のベッドに座り、俺と向き合うようにしながら見つめてくる。
俺もようやく覚悟を決めてその場に座り、アカリと目を合わした。
「昨日の件を話すなら、先ずは俺から話させてくれ。……その、悪かった。あまりに自己中心的な発言ばかりだったと思う……」
「別に謝らなくていいわよ。正直に話すと、最初聴いた時は驚いた……だけど、嬉しくもあったのよ。貴方があんなこと話してくれるだなんて、思っても見なかったから」
寛大な奴だな。偉そうではあるが、そう言った感想が先ずは浮かんできた。
怒りや失望、呆れに拒絶ではなく、真っ直ぐと俺の意見と向き合い、その上でフォローもしてくれる。
それがまた、罪悪感という形をより鮮明に作り上げた。
この際、腹が立っただとか、謝ってほしいだとか言ってもらえた方が楽だったのかもしれない。
せっかく良い対応をしてもらえたというのに、こう言ったことを考えてしまう俺だから、昨日はあんなことを言ってしまったのだろう。
「あんな意見に、素直に向き合おうとしなくて構わない。あれは意見でも何でもない、ただの俺の我儘だ」
そう、我儘なのだ。
俺自身がアカリを大切に扱うような態度を取らなかったというのに、いざ離れるとなると寂しいなどと。あまりにも身勝手だ。
「我儘ね……確かに、そう言ったところはあったかもね。だけど、それでも私は嬉しく思うわ。我儘だろうと何だろうと、それが貴方の本心であり、思いだった。そうでしょ?」




