第七十二話①
「まぁでも、無理な話よね。元の世界に帰るだなんて」
「何故そう思う。次に向かうのは魔法の国なんだ。元の世界に帰れる魔法があるかもしれないだろ」
「仮にあったとしてもでしょ。元の世界に帰ったところで、今の私が誰かなんてわかる人はいないわ」
「そんな薄情な話があるか? まだこの世界にきてから半年も経っていないんだ忘れている筈がないだろ」
「え、忘れる? そういうことじゃないでしょ」
何処かアカリと話が食い違っている気がするが、何処がどのようにズレてしまっているのかがわからない。
「元の姿とは違うのよ。今の私が元の私だなんて、わかる筈がないわ」
「……ん? 少し待て、元の姿と変わっている……何の話だ?」
ここで何が噛み合っていないのかが、分かり始めた。アカリも俺と似た表情を浮かべている。
「貴方もしかして、そのままの姿で転生してきたの?」
「お前はもしかして、転生の際に姿が変わったのか?」
どうやら俺とアカリは、転生の仕方が違っていたらしい。ならば話が噛み合わないのは当然のことだ。
「そう言えばお互いどの様に転生してきたのかなんて話、してこなかったわね」
「お互いが転生だといった共通点があったからな。転生の流れも同じだと、勝手に思っていた」
一気に目が覚めてしまい、俺はベッドの上に座り込んだ。
アカリはこの話をもっと深掘りしたいらしく、俺の顔を見ながら距離を詰めてきた。
「私は、15歳の頃に記憶が戻ったの。前世での事、この世界が前世でプレイしていたゲームの世界だという事、そして私がそのゲームの悪役令嬢であることを」
アカリの発言、その全てに俺は驚きを隠せずにいた。
この世界がゲーム? そんな事あり得るのだろうか。
だが、そのゲームのキャラクターに転生したというアカリの発言、嘘だ虚言だと跳ね除けるのは違うだろう。
それに転生の仕方も俺とは大きく異なる。
俺は死後、その後直ぐに女神の元へ赴き、力を得て転生した。
それなのに対して、アカリはこの世界で元の記憶がないまま15歳まで過ごし、そしてある日突然記憶が戻ったという。
どうりでアカリは女神から力を得ていないわけだと、今更ながらに気がついた。




