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第七十一話③

 ふと通りに設置されてある時計を確認してみると、外に出てから早くも1時間ほど経っている事に気がついた。


 そろそろ戻るとしよう。

 明日は昼頃にこの国を出る為、早く起きる予定だからな。早めに寝ておかないと、明日は1日中眠いまま行動する事になってしまう。


 最後にこの通りをじっと眺めたのを最後に、俺は宿へと戻った。

 自室の部屋の扉をゆっくりと開き、アカリを起こさない様にする。

 だが、少し扉を開けたところで、部屋の中から灯りが漏れてくるのがわかった。


「あら、遅かったわね」

「……起きていたのか」


 部屋の中に入ると、目を覚ましているアカリの姿が目に入ってきた。

 ベッドの上で座りながら本を読んでいる。どうやら今目を覚ましたというよりも、先程から起きていたみたいだ。


「お前も眠れなかったのか?」

「えぇ、眠れずにぼーっとしていたら、貴方が部屋を出るのが見えてね。それで完全に目が覚めたから、こうして本を読んでいたのよ」

「すまないな。まさか起きているとは思わなかったんだ」

「別にいいけど。それよりも、こんな時間に何しに行ってたの?」

「別に、何か特別な理由があったわけじゃない。ただ眠れなかったから、散歩していただけだ」

「ふーん、ならいいけど……。どうする、もう灯りは消した方がいいかしら?」

「いや、まだ眠れないんだろ? つけたままで構わない」

「ありがと。ならもう暫くこうしておくわ」


 アカリは引き続き本へ視線を移す。


 俺はベッドに横になりながら、ふと先程考えた事を思い出した。


 口にするのには少し抵抗がある。しかし、俺は今寝ぼけてしまっているのだと自分に言い訳をして、アカリとは顔を合わせないまま、話してみる事にした。


「なぁアカリ。先日お前は、出来ることなら元の世界に帰りたいと言っていた。もしも仮に、この世界での問題を解決した場合、本当に帰ってしまうのか?」

「……何よ急に。何かあったの?」


 アカリは少し心配そうに返答する。

 この態度は当然だ。急にどうしてしまったのだと思うだろう。


「別に、これは俺の寝言程度に捉えてくれて構わない。ただ……ふと気になったんだ」

「……。もしも帰れる手段があるのなら、私は帰ると思うわ」

「そうか……」

「何、寂しいの?」

「さぁな……わからない。ただ、お前とはまだ出会って間もないんだ。寂しいというのは、少しおかしい気もする」

「別に出会ってからの期間なんて関係ないでしょ。長い間一緒にいてもお互いを分かり合えていなければ別れを惜しくは思わないし、一緒にいる期間が短くてもお互いの事を理解し合えていたら、寂しく感じるんじゃない」


 そういうものなのだろうか。

 今まで誰とも関係を築かなかった俺にとって、別れとは経験した事のない事で、正直どう言った感情なのかはわからない。

 ただ、アカリと離れてしまうことは、俺にとってとても悲しい事のように思えたのだ。

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