第七十一話①
「就寝の準備は出来たか? 灯りを消すぞ」
「えぇ大丈夫よ。おやすみなさい」
アカリに軽く返事をした後、俺は灯りを消してベッドの上で横になり、瞳を閉じた。
――
灯りを消してから、1時間は経過しただろうか。
眠れない。自分にとって、珍しいことだ。
ゆっくりと目を開きながら、窓の方へと視線を向ける。
深夜ではあるが、飲み屋が近いからか微かに外から人の声が聞こえてくる。
締め切ったカーテンの隙間から、僅かに溢れた月明かりを眺めた後、今日通りの方々から貰ったお菓子を見つめた。
持ち歩くには少し多いなと愚痴を頭の中で吐きながら、今日でこの通りともおさらばなのかと、少しばかり寂しい気持ちに襲われた。
好きだったアニメの最終回を見た程度の寂しさではあるのだが、それでも何処か喪失感があった。
別にまた来ようと思えば、魔法を使用していつでもやって来れるのだろうが、それは冒険の途中にやるべき事ではない様な気もする。
ハーレムメンバーがいれば、そいつに会いに来ると言った言い訳が用意できるだろうが、ここではそうもいかないだろう。
パンプキンや女王と言った仲間と出会えたわけだが、不必要に何度も会いに来るのはおかしな話だしな。
次にこの通りへ、この国へやってくるのは冒険を終えた後だろうか。
それはつまり、魔王討伐後。
今のペースで進めば、一体何年後になるのだろうか。あまりに途方もない旅だ。
もしかしたら、旅を終えた頃にはこの場所のことなんて忘れているのかもしれない。ふとそんな事を考えてしまう。
先程から感じる寂しさは、この感情が原因かもしれないな。
そう思った矢先、俺はアカリを起こさないようにゆっくりと立ち上がりながら扉の前に立ち、音を殺しながら部屋を出た。
最後にこの通りを歩いてみたいと思ったのだ。
少しでも長くこの場所を印象付ける事で、記憶に定着させる。そうすれば、忘れるだなんてことはなくなる筈だ。




