第六十九話①
祭りに参加してからというもの、あっという間に時が流れていった。
アカリに振り回されたのが原因だろう。
楽しくなかったといえば嘘になるが、アカリほどははしゃいでいない。とはいえこんなにも賑やかな環境に身をおいていたからか、体力以外にも気分的に疲れてしまい、俺は屋台の隅の方で腰を下ろしていた。
「もう情けないわね。ほんと、魔法は使えても体力はないんだから」
「お前はむしろ、何故そこまで体力が有り余っているんだ。体育会系にも見えないし、意味がわからない」
「別に私の体力は一般的で、貴方が非力なのよ」
「言ってくれるな……。まぁいい、後はお前1人で楽しんでこい。俺はここで休んでいる」
「そうは行かないわよ。貴方もついてきないよ」
「無茶言うな……」
「冗談よ。もう祭りも終わりの時間だし、パンプキンさんの元に向かいましょ」
ようやく休めるのかと、俺は最後の力を振り絞って立ち上がる。
先程、祭りの最中にパンプキンが一度俺たちの元へ訪れて、直ぐ近くの宿に部屋を借りたと伝えにきてくれたのだ。
そこへ向けて歩き始める。
「お嬢ちゃん達! ホントありがとな!」
「祭りは楽しめたかい!?」
すると、屋台の方からそんな声がこちらへと飛んできた。アカリは愛想のいい笑みを浮かべながら、大きく手を振って返事を返す。
「とっても楽しかったわ! 私、この通りのことも、皆さんのことも大好きよ!」
その発言に、皆は感謝と喜びを言葉と態度で示していた。
暖かく心地のいい空気、言葉にするつもりはないが、本当にいい場所だと思えた。
俺は軽く手を振ってその場をさっていく。
自分で言うのもあれな話だが、アカリとは違って、愛想の悪い態度だ。
「兄ちゃんもありがとうな!」
「あんたはうちの英雄だよ!」
それなのに対して、皆は俺にも感謝の言葉を次々に口にする。
振り返る事なく俺は先を進むが、暫くの間、背中には温もりを感じる言葉が途絶える事なく降り注いでいた。
「いい人たちよね。貴方でもそう思うんじゃない?」
「……手助けして良かったと、心からそう言える奴らではあったな」
俺の発言に、アカリはクスリと笑ってみせながら、太陽が沈み切った空を眺めた。
「いよいよこの通りとも、お別れが近づいてきたわね」
「……そうだな。後はパンプキンと話をして、休息を取った後、明日の昼頃にはここを出る。長いようであっという間だった」
「全部を含めてどうだった? 楽しかったかしら?」
「全て含めるのなら、楽しいよりも疲れたと言った感想が先に出るな。色んなことがあり過ぎた。もう一度やれと言われれば、もうやらないだろうな」
「なら、初めからこんなにも疲れることになるって知ってたら、この街には来なかった?」
「……いや、それはまた話が別だな。そうなればパンプキンとも会えていないわけで……お前も菓子が食えないのは嫌だろ?」
俺の発言に、再びアカリは笑ってみせる。
何故だか小っ恥ずかしくなりながら、俺はパンプキンのいる宿へと向かっていった。




