第七話①
そこまで大きな島ではない為、女の子が眠るとされる場所まで辿り着くのに、移動し始めてから5分もかからなかった。
バーグがここだと指差した場所は、全体を見渡すことが出来ない程の大木で、あまりに幻想的なその姿に、俺は柄にもなく見惚れてしまう。
その大木の根から近い部分に大きな穴が空いているおり、そこにいるのだとバーグは教えてくれた。
「わかっているな?驚かすような真似はするでないぞ」
「俺を馬鹿だと思っているのか?それくらいは理解している」
俺は大木にゆっくりと近づいて、そっと穴を覗き込んだ。
そこには無数の毛布が転がっており、中は大変心地が良さそうになっていた。
影になっているからか、外と比べて気温も低く涼しく感じる。眠るには最適な環境だろう。
「どう?女の子はいた?」
「まだ見えないな。…一体何処にいるんだ?」
俺は毛布を掴んで、ゆっくりと退かしていく。
中は3畳ほどのスペースで、部屋として見ればあまり広いとは言えないが、眠るにしては十分なスペースがあり、毛布の下にいるのだとしたら、探すのに少し手間が掛かってしまいそうだ。
俺は仕方なく靴を脱いで中へと入り、部屋の奥の方にある毛布などを退かしていく。
するとそこから少し歩いたところで、毛布とは違った感触のものが当たった事に気がついた。
俺は直ぐにその場から足を退かして、ゆっくりとそこを巡ってみると、足のようなものが見えてきた。
その周囲にある毛布を一気に退かすと、何やら眠そうな声を上げながら、瞳を閉じている少女がそこにいた。
「やっと見つけたな」
「思っていた姿と違うわね。女の子というよりも…少女?に近い気がするわ」
年齢は俺よりも2つか3つほど下に見える。
髪は細い白髪でとても長く、彼女の身長すら超えており、前髪があまりに長くて顔の半分以上が見えなくなっていた。
「……中々起きないな。声をかけて見るべきなのか?」
「そうね……ただそっと起こしなさいよ。まさかここに人が来るだなんて、考えもしていないだろうしね」
「それもそうだな。驚かせて、印象が悪くなるのも困る…それに変に驚かせたら、あいつらも文句を言ってきそうだしな」
俺は「おい、起きろ」と囁くようにして声を掛ける。
反応はしているが、「う〜ん」などと眠そうな声を上げて起きようとしない。
何度もそれを繰り返したが、しまえには芋虫のように布団の中に潜り込もうとし始める。
「……少し話がしたい。いい加減に起きてくれないか?」
我慢の限界を迎えそうな俺は、いつもと変わらない大きさで声を出してみたところ、ようやく彼女はピクリと眠そうな態度をやめて固まった。
そしてぐっと背伸びをした後、体をゆっくりと起こしながら周りを困惑したような顔で見渡す。
「ん?……前が見えない。世界から光は失われてしまったの?」
「そうじゃない。お前の髪が長過ぎるのが原因だ」
彼女はそっと自分の前髪を触り、「わっ!」と声を上げて驚いたように少し手を上げた。
「びっくりした……アタシそんなに寝てたんだ」
そう言ってグッと背伸びをする。
「それで、貴方達はどなた様?この島に……いや、アタシの元まで辿り着けるなんて、ただものじゃないと思うけど」
髪をまくり上げて、俺たちをじっと見つめる。
エメラルドのような瞳はあまりにも綺麗で、これもまたバーグらが彼女を女神と崇める理由の1つになっている気がした。
「そうだな…お前の言う通りだ。俺達はただものじゃない。そんな俺たちと同じくただものじゃないお前に会いに来たんだ」
俺の話を微笑みながら聞いている彼女の姿はとても美しいもので、今いる環境も合わさり、本当に女神のような姿で、俺の瞳には映っていた。