第六十六話③
月明かりのみを頼りに、真っ直ぐ目的の場所まで進んでいるが、何かをずっと気がかりに感じている。
そして少ししてから、ようやく何が気になっているのかを理解する。
「なぁアカリ、違和感を感じないか?」
「何よ急に……違和感? そうね。何処の家にも灯りがついないことくらいかしら」
「それは確かにそうだ。本来別の街なら、この時間帯にこれ程家に灯りがついていない事は珍しいだろうからな。だがそれは、祭りの準備に人が集まっているからと考えれば、一応納得する事は出来る」
それでも、街灯までもが消えているのには疑問を感じる。
ただやはりそれも、この時間帯のこの場所には祭りの影響で人が通らないから、節約の為に消しているだとか、そう言った風に無理矢理理由付けする事は可能だ。
だが俺の中で抱いている違和感は、そう言った理由付けすら困難なものになる。
「何なのよ、早く言いなさいよ」
「……この一帯に灯りがついていない事には、妥協して納得するとして。何故目指している場所にすら、灯りがついていないんだ?」
そう言って俺は、目的の場所である通りの中央エリアを指差した。
「……確かに、先日の祭りの時は、始まる前でもある程度の灯りがついていた筈よね……」
途端にアカリは暗い顔を浮かべる。
流石に不気味というか、違和感を覚えたのだろう。
「ひとまずアカリ、俺のすぐ側にいろ」
「何よ急に、別にそこまで怯えてないわよ」
「そうではなくてだな。何かあった時、直ぐに対処できるようにしておきたいんだ」
なるほどと、納得したようにしながらアカリは俺の直ぐ横に立つ。
ここから後3分もすれば目的の場所に着くわけだが、その先に何が待っているのかわからない状態となると、警戒心から足取りが重くなってしまい、なかなか先に進めなくなってしまう。
その間、何がどうしてこうなっているのかを考える。
仮に何かがあったのだとすれば、あまりにここ一帯は綺麗すぎる。荒らされた形跡が少しもないのだ。その為何かがあったとは考えにくい。
ならば今まさに、何かが起きている最中だすればどうだろうか。
いや、それならばあまりにも静かすぎる。
風の音と、落ち葉が靡いて床に擦れる音しか聞こえないのだ、何かが起きているとは考えにくい。
「パンプキンさん……この先にいるのかしら」
「……この暗がりになってからパンプキンは通りに戻ったのか、それともパンプキンが戻ってからこんな状況になったのか。前者だとすれば、パンプキンは一度街へ戻っている可能性もあるかも知れないな」
「そうだとすれば、私たちも街に戻るべきじゃない?」
「無理に進むのは危険だと思うか?」
「……貴方がいるから大丈夫だと思うけど、無理にリスクを負いたくないのよ」
「……それもそうだな。ならば一度もど、」
その瞬間、進んできた道が突如落ちてきた瓦礫によって塞がれてしまう。
どうやら屋根が崩れて、その反動で家に立てかけてあった木材が倒れてきたらしい。
引き返そうとしたこのタイミングで……あまりに不気味だな。




