第六十六話①
ゆっくりと馬車が止まり、少ししてから御者が扉を開ける。扉の先には女王の姿があった。
「女王に出迎えられるとは、改めて考えてみても贅沢だな」
下車しながら話しかけると、女王は微笑みながら首を振る。
「私が出迎えることなど、大した事ではありませんのでお気になさらず。それよりも、時計塔はどうでしたか?」
「正直、かなり気に入った。建物自体にも興味を惹かれたが、あーいった昔からある建造物といった存在を知れたのも大きかった」
「それに、景色も素晴らしかったしね」
馬車から降りたアカリも会話に混ざる。
「アカリも、随分気と入っていたみたいだぞ」
「あんなに素晴らしい景色を見るのは初めてで、思わず瞳を奪われてしまいました。女王様には感謝しています」
「楽しんでいただけたのなら良かったです。またご覧になりたい時はおっしゃってくださいね。鍵をお貸し致します」
次この国に来るのがいつになるのかは分からないが、俺たちは頷いて「はい」と答えた。
「では時間が時間だし、そろそろ通りに向かうとするか」
「そうね。今から向かえばちょうど祭りが始まる頃だと思うわ」
「女王は来ないのか? いや、…あーそうか。仕事が残っていたのだったな」
「そうですね……ごめんなさい。仕事もそうですが、女王である私は簡単に街の外まで出掛ける事は出来ないので……」
考えてみればそうか、女王と言った立場で外出するとなれば護衛などが必要になってくるのだろう。
近い距離で話しているから忘れがちだが、女王は俺たちよりも難しい立場にいるのだ。
「では仕方ないですね……残念です」
「私のことはお気になさらず、存分に楽しんできてください。街を、国を良い方向に導いてくれた英雄なんですから」
俺たちは女王に手を振って感謝と別れを告げて、すれ違い様に御者にも礼をいった。
「女王様も来れたらよかったのにね」
「その通りだが……仕方のない話でもあるな。俺たちとは立場が違うのだ、寧ろここまでよく女王の立場でありながら、協力してくれたものだ」
「それもそうね……。ねぇ、祭りで買った食べ物を後で持って行ってあげない? 祭りは参加できなくても、せめてあの美味しいお菓子は食べて欲しいから」
「お前がそうしたいのなら、そうすればいい。まぁ……喜びはするんじゃないか」
そんな会話をしながら通りへ向かう。目の前には街から通りへ向かう際に最も面倒な森が見えてきていた。




