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第六十五話③

「……マヤト、起きなさい。マヤト……起きなさいって!」


 アカリの怒鳴る声で、俺は勢いよく瞳を開く。

 どうやら気がつかないうちに、眠ってしまっていたみたいだ。


「……もうついたのか?」

「もう後少しよ。……何、急に眠ってしまう程疲れてたの?」

「そうは思っていなかったのだがな。どうやらまだ疲れが抜けていないらしい」


 パンプキンの件で消耗した体力もそうだが、あの時計塔の件で随分とはしゃいでしまったからな。

 その疲れも相待って、気がつかないうちに眠ってしまったのだろう。


 俺は目を擦りながら外の景色を眺める。

 通っている景色は何度も見た事のある景色となっており、アカリのいう通りもう直ぐ城に着くのが分かった。


「そろそろ到着しますので、用意をしてお待ち下さい」


 小窓を開けて、御者がそう伝えてくる。

 時計塔を出てから顔色が悪かった御者だが、今の様子を見るに既に回復しているみたいだ。


「城に着いて直ぐに、通りへ向かうのか?」

「そのつもりよ。日も落ちた事だし、そろそろ祭りが始まると思うから」

「そうか」


 俺が伸びをしながらそう答えると、何やらこちらを心配そうにしながら見つめてくる。


「貴方は城か何処かで休んでおく? まだ疲れてるんでしょ?」

「あぁ、そう言った手段もあるのか……。いや、だが大丈夫だ。今日でこの街とはおさらばだからな、忘れぬように少しでも動いておこうと思う。面倒ではあるがな」

「ふーん……。貴方でも、思い出を残しておきたいって気持ちはあるのね」

「……冒険を終えて振り返った時に、何があったのか忘れてしまうのは残念だからな」


 前の世界では、思い出を残しておこうだなんて思ったことは一度もなかった。強いていうのなら、触れた作品で面白いものがあれば、忘れぬように覚えておきたいと思った程度だ。

 では何故、この世界に来てから俺は思い出を残しておきたいだなんて、考えるようになったのだろうか。


「やっぱり貴方、案外この世界を楽しんでいるのね」


 アカリは微笑みながら、そう話す。

 この言葉で、俺は自分のことを少し理解した気になった。

 パーティ追放に婚約破棄など不遇な目にあい、そして面倒な街同士の争いに協力することになったりと面倒なことが多々起こっている。

 だが、どうやら俺はそう言ったものも含めて、この世界を楽しんでいるみたいだ。

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