第六十五話①
「珍しく静かね。貴方もこう言った景色が好きなの?」
「嫌いじゃないが、もう満足だな。お前が随分と景色を楽しんでいる様子だったから、静かにしてやったんだ」
「ふーん。空気を読むだなんて出来たのね」
「当然出来はする。基本的に読むのが嫌いなだけだ」
「じゃあ嫌いな事をしてくれてたわけね、ありがとう。おかげで楽しめたわ。いつもみたいに文句を垂れられてたら、こうは出来なかったから」
「……一言余計だな」
その後少しの間アカリは景色を楽しみ、満足な様子を浮かべたところで、そろそろ城へ戻る事を提案した。
「悪かったわね、随分と長い間付き合わせちゃって」
「1時間も経っていないからな、気にする程ではない。俺もこの場は嫌いじゃないからな。……ただ、御者には礼を言っておけ」
アカリは頷き、御者に謝罪混じりの礼をする。
「いえ、私もこの景色に浸っておりましたのでお気になさらず、このような場所に赴ける機会は珍しいですからね。良い体験をさせていただきました」
俺たちは皆、何かに満たされたかのようにしながら扉をくぐり、先ほどの板に乗る。
「下に下がるよ。気をつけてね♡」
再び甘ったるい声色が何処からか聞こえてくる。
そしてその後すぐに、板は物凄い速度で下へと下がった。
俺たちを置いて。
「はっ!?」
「え、ちょっと!」
あまりに早く降りて行った板に俺たちはついて行くことが出来ず、空中に取り残されてしまった。
そうなって仕舞えばどうなるのか。
簡単だ、落下する。
俺たち3人は焦りからジタバタと動きを見せるが、それで落下の速度が落ちるわけではなく、みるみるうちに地面が近づいてくる。
せっかく満たされた気持ちでいたというのにと、落ち込みながら俺は仕方なく魔法を使用した。
最もシンプルな浮遊魔法、それを俺の周り全体に付与させると、皆は落下をやめて浮かび上がった。
その後ゆっくりと地面へと着地すると、アカリは焦りからか額に汗を滲ませて、御者は先程までの大人な雰囲気が嘘のように涙目になっていた。
「これ……昔の人間はどうしてたんだ。皆落下してたのか?」
「さぁ……どうなんでしょうね。この世界の昔の人たちは、物凄く体が頑丈だったとか?」
「あの高さから落ちても大丈夫な人間なんて……中々いないと思うのですが……」




