第六十四話②
「失われた魔法……そんなのもあるのね。…貴方はそれらも使えるわけ?」
「そうだな、使える筈だ……だが、どう言った魔法か分からない以上、使いようがないな。大雑把にでもどう言った効果を発揮する魔法かを知ることが出来れば、話は別なんだが……」
俺はこの世界に来てからまだ1年も経っていない。ある程度魔法の知識を身につけてはいるものの、失われた魔法がある事を俺は今初めてしった。
その程度の知識量だ。
全ての魔法が使えると言っても、どのような魔法があるのかまでは知らないからな。こんな事なら、予め魔法の種類をまとめた書物でも、女神に要求すれば良かった。
ガチャンと、重い金属が動く音が聞こえてくる。
「どうやら開いたみたいです」
そう言って、御者が鍵穴から鍵を抜き取ると、まるで壁が自動ドアかのように、左右にスライドして開いたのだ。
「随分と近代的と言うか……魔法のようには見えない動きだな」
「魔法と科学は違うけど、結局作っているのは人間だからかしら、ある程度物を作るにあたって、構造が似てくるんじゃないかしら」
「では、早速入って見ましょう……ですが明かりがありませんね」
そう言いながらも御者が中へと進むと、突如塔の中は光に満たされた。
昼間と変わらない明るさが、塔の中でも存在している。
「明る過ぎず暗過ぎず、程よい明るさだな……」
この塔の中が、どうやって光っているのか仕組みがわからない。
光を灯すような道具も何も見られないのだ。
つまり、魔法と判断しても良いのだろう。
こう言ったものもあるのか……今後役に立ちそうだな、帰宅後に練習することにしよう。
「ねぇ、あれって何かしら?」
そう言ってアカリが指差した先には、何やら円形で作られた板のようなものが床に敷いてあった。
カーペットにしては分厚く、まるで鉛のような重厚感を感じさせている。
それだけではない。
恐らくアカリも気になったのは、この重そうな板が浮いていることに対してだろう。
数センチではあるが、確実に地面から浮いている。
「どう言った魔法かわからない……と言うよりも、何故こんなものを置いているのかがわからないな」
「とりあえず乗って見たらどうかしたら? マヤトが」
「気になるならお前が乗ればいいだろ。何故俺なんだ」
「何があっても対処できるのは貴方くらいでしょ? 私は真っ当な事を言ってるのよ」
確かに言っている事はわかるのだが、言い方が鼻につくな。
俺は苛立ちも感じながらも、好奇心からその板の上にゆっくりと乗ってみることにした。
両足をその板の上に乗せて中央に立つ、すると何処からか声が聞こえ始めたのだ。




