第六十三話③
「もう少しで到着しますので、ご準備の方をお願いします」
アカリと話している最中に、御者が小窓を開けてそのように話しかけてきた。
気がついていなかったが、随分と時間が経っていたらしく、辺りの景色は知らない場所となっていた。
「思っていたよりか近くはあったが、かと言って遠くない場所といえば嘘になる程の距離だな」
「つまりは絶妙な距離ってことね。これなら、今から目的の場所で過ごした後に帰れば、ちょうど祭りが始まる時間に着くんじゃないかしら」
すると馬車はゆっくりと止まり、「到着致しました」と御者が言った後、そのまま扉を開いてくれた。
俺たちはゆっくりと馬車から降りて、辺りを見渡す。
「どうやらこれの事だろうな」
「そうね。随分と立派だわ……」
降りて直ぐのところに、目的の場所と思われる建造物があった。
圧巻と言えるほどに巨大かつ立派な時計塔。それがそこにはあったのだ。
「女王はこれを見せたかったのか」
「私たちの世界にも似たようなものがあったけど、これは何だか雰囲気が違うわね」
「雰囲気でいえば、何と言うかこの国らしくない建造物だな。この国なら、この塔にもあらゆる装飾品をつけたり、金を貼り付けたりすると思うのだが」
俺たちが疑問を感じていると、御者がこちらへ近づいてきて、この塔についての説明を始めてくれた。
「この塔は、今から数千年前に作られた物になります。それをそのまま残してありますので、今のこの国の雰囲気とは違った物になっているのです」
「数千年前? ……何か補修などをしていっての話か?」
「いえ、主に行われるのは掃除程度のもので、私が生きている間に何処かを治したなどの話は聞いたことがありません」
この建物自体に感じた驚きは些細なものだったが、その話を聞いて俺は驚きを隠せないでいた。
俺のいた世界でも、かなり昔のものが残っていたりはする。例を挙げるのなら、ピラミッドなどだろう。
この世界にもそう言ったものがあるのは不思議なことではないが、ここまで綺麗な状態のまま、数千年も経っている建造物となると、驚きを抑えきれない。
あまりにも浪漫のある話だ。
何らかの技術か、はたまたこの世界特有の魔法を用いたのか、それらは分からないが、俺はこの建物に偉く興味を惹かれた。




