第六話②
地上まで降りた後、アカリは俺の元から急いで降りていった。
「そんな急いで降りる事はないだろ?」
「もっと抱きついていたかったの?でも残念、急に空高く飛び立つ人に、ずっと担がれていたくはないの」
「…今度からは一声かけるから、機嫌を直してくれ」
そんな会話をしている最中も、周りにはモンスター達が、俺たちを囲むようにして、睨みつけてきていた。
だか警戒しているのか、自分たちから攻撃を仕掛けてこようとはしない。
「なぁお前ら、1つ聞きたいことがある。少しでいい、話し合わないか?」
アカリとの約束通り、交渉の為に声をかけてみたが、奴らは言葉を返す素振りを見せようとはしない。 モンスターが故に言葉が通じていないのか、単に会話をするつもりがないのか。
「ここで眠ってる女の子にようがあるの、少しでいいから合わせてくれない?」
アカリも俺に続いて会話を試みてくれたが、これが悪手だったみたいだ。
辺りにいたモンスターは血相を変え初めて、俺たちに向かって槍や弓を構えながら、殺気を飛ばしてきているのだ。
3メートルはあるであろう巨体のモンスター達が威嚇し始めたのだ。
俺は交渉をやめて、仕方なく構えをとった。
「交渉はどうやら構わないみたいだな。すまないが、少し痛い目にあってもらう」
「手加減はしなさい…それと、殺しちゃダメよ」
「わかっている。ただ、動けないようには、させてもらうがな」
会話を終えた後、槍を構えていたモンスター達が一斉に俺たちに向かって飛びかかってきた。
あまりの速さに風を切る音が聞こえてくる。
俺はそれに対抗するべく魔法を発動させた。
それは普段使っていた魔法よりかは低威力のもので、高レベルのコイツらにダメージを与えれるかはわからないが、ひとまず試す意味を込めてぶつけてみる。
体全身から、光がはっきりと見えるほどの電撃を発動させながら、それを辺り一面に放出させた。
相手の持つ槍を、まるで避雷針にするかのようにして扱い、電撃をモンスターの身体全身に浴びせる。
それをくらったモンスター達は、体を小刻みに痙攣させながら、地面に膝を着くようにして倒れ込んだ。
思ったよりもダメージを追っているらしく、相手は武器すら手に持つことが出来なくなっていた。
「どうだ?体が痺れて動けないだろ?」
俺は相手の顔に自らの顔をグッと近づけて、馬鹿にするような態度を取る。
そんな俺の背中を目掛けて弓を放とうする者がいたが、掌から冷気を飛ばして、相手の弓と体を凍らせて一体化させた。
俺は残りの連中も同様に、電撃や氷の魔法を自在に使って、身動きを封じさせた。
殺気を飛ばしていたモンスター達だったが、すっかり瞳に涙を浮かべ始めたおり、闘志はすっかり失われたみたいだ。
「おいお前ら、さっきまでの威勢はどうした?こちらは話をしたいと持ちかけたよな?なのに攻撃を仕掛けてくるもんだから、俺は仕方なく、、いだっ!」
「煽ってんじゃないわよ。元々私たちは許可もなく立ちいったんだから、私たちにも非はあるわ」
「ならそう口で言え、殴る事ないだろ」
気分良く相手を煽っていたところを、アカリに止められてしまった。
変に真面目で優しいところがあるから、こう言った事が許せないのだろう。
アカリは一体のモンスターに近づいて腰を下ろし、見つめるようにしながら頭を撫で始めた。
「ごめんなさいね。別に貴方達に危害を加えようってわけじゃないの」
モンスターは怯えた表情を少し崩して、アカリに縋るような、媚びた目を浮かべるようになった。
「何をしている。仲間にでもするつもりなのか?」
「そうじゃないわよ。あくまでも私たちは敵じゃない事を伝えて、女の子の居場所を教えてもらおうとしてるの」
だがモンスター達は口を割ろうとはしない。
言葉の意味は理解しているらしいが、頑なに女の子については、教える素振りを見せないのだ。
すると突然、一体のモンスターが大きな声を上げ始めた。
「…何だ急に?」
「すごいわね…木が揺れてるわ」
その大きな声は辺り一体を揺らし始める。
どう言った後での叫びかはわからないが、悲鳴などと言った悲しい声ではなく、希望に満ち溢れた歓声のような雄叫び。
それに続くように周りのモンスター達も声を上げ始めた。
一体何が起きたのか、何が奴らをそこまで奮い立たせ始めたのだろうか。
そう思った矢先、この一帯に影がかかっているのがわかった。
イカダを漕いでいた際にまた空は、雲一つない快晴だった。
となればこの影は一体何なのか、それがきっと奴らの雄叫びの正体だろう。
俺は鼓動を昂らせながら上を見上げると、奴らと似た姿の、だが大きさが桁違いにデカいモンスターが、そこに立っていた。
偉そうな事に王冠やマントを身につけており、奴がここのボスである事は、一目見て直ぐにわかった。
「特撮映画のような迫力ね。貴方、あんなのにも勝てるの?」
「勿論勝てはする……だが、流石に技を使わなくてはな。そうでもしないと、足止めすら叶わない」
「……はぁ、1撃で決めてよね」
俺は頷いた後、相手と向かい合える位置まで飛んで向かう。
相手の顔の直ぐそばに辿り着いた後、指をさしながら交渉を始めた。
「おいお前、最後の警告だ。俺に攻撃を仕掛けてくるつもりなら、容赦はしない。直ちに女の子の眠る場所を教えてもらおうか」
交渉ではなくなってしまったがまぁいい。
どの道相手は何も反応を示さないのだ。
それどころか腰から大剣を抜き取って構え始めた。 どうやらやり合うつもりみたいだ。
モンスターが大ぶりで剣を振り翳そうと、上に武器を構えた後、俺は相手に向かって手を翳し、魔法を発動させる。
「【破壊】」
そう俺が唱えた瞬間、相手の大剣は微粒子レベルになるまで粉粉となり、跡形もなくなった。
下の方から「ダサい!!」と叫ぶ声が聞こえてきた気がするが、気にはしない。
そんな事よりも、武器が破壊されたのに未だ戦闘の意思を持っている、相手に俺は驚いていた。
もう既に俺との戦力差はわかりきっており、相手も勝てない事はわかっているだろう。
それなのに向かってくるその姿は、俺の目指す主人公と少しばかり重なっていた。
「……会話は出来ないのか?俺は別に、お前らをどうにかするつもりはないんだ」
俺の発言の後、少ししてから相手は口を開いた。
「だが、この島の少女を狙っているのだろう……知識が目的か?貴様らのような奴のやる事は分かりきっておる。あの子は渡さんぞ」
大きな声でそう話しながら、俺を睨みつけてくる。
「知識も得られるに越した事はないが、俺の目的はそこじゃない。ひとまず話がしたいんだ」
「話を……それだけか?貴様は一体何を言っているのだ?」
「ひとまず下で話さないか?俺の仲間も紹介する」
相手は渋々俺の言葉を飲んでくれ、ゆっくりと胡座を描くようにその場に座り込んだ。
俺はそれを確認した後に、ゆっくりと下へと降りていき、アカリと合流した。
「話合いが出来そうだぞ」
「知ってる。あんな大きな声で話してるんだから聞こえてるわ。……どうやらあのモンスター達にとって、女の子は大事な存在みたいね」
そんな会話をしている最中に、相手のボスはみるみるうちに小さくなっていっていた。
どうやら先程までの姿は魔法により巨大化した姿だったらしく、縮みきって周りのモンスターよりも少し大きなこの体が、本来の姿みたいだ。




