第五十五話③
王国騎士長は俺からゆっくりと離れながら、女王達の方へ体を向ける。
「王国騎士長! どうしてですか!」
「そうですよ騎士長! 貴方は正義の象徴だった筈!」
「何かの間違いではないのですか!?」
随分と兵士たちに慕われていたらしく、王国騎士長のこの行いに対して嘆く者達でこの場は溢れ返っていた。
コイツらの前では頭のおかしい態度を隠していたのか、はたまた俺と言ったイレギュラーな存在の出現によって頭がおかしくなったのか。
どちらかわからんが、こうなったのは自業自得だ。
地位も名誉も、この惨状を皆に、そして何よりも女王に見られて仕舞えばおしまいだ。全て無に……いや、マイナスへまで落ちてしまうだろう。
そうだというのに、王国騎士長は顔色ひとつ変えず、強いて言うのなら少し面倒くさそうにしながら、皆の様子を伺っていた。
「王国騎士長。今回の件、首謀者は貴方で間違いありませんね」
「見ていただいた通りです、女王様。いやぁそれにしても困りましたね。私程の力があれど、女王様に手を出すわけには行きませんからね。面倒な事になりました」
そんな言葉を軽々しく口にする王国騎士長に、兵士の皆は顔を曇らせながら、焦りを見せていた。
「王国騎士長…! パンプキン殿を攫ったのは、本当に貴方なのですか! 何かの間違いでは、」
1人の兵士が必死に問いかけるが、その答えは、あまりに残酷なものだった。
「間違いなんかではございません。その通りだと言っているではないですか。私は貴方達を、そんな理解力の欠片もない存在に育てた覚えはありませんよ」
「何処までも頭のおかしいやつだな。そんな発言をして、心を痛めないのか?」
「私が皆にしてきた扱いは、今も昔も変わりませんよ。自分本意で生きてきました。私は私の為に王国騎士長となり、そして私の為に、新たな目標を見つけたのです」
その言葉を最後に、王国騎士長は駆け出した。
誰も寄せつかせぬほどのスピード部屋を後にし、そのまま壁を破壊してこの城を抜け出したのだ。
「それではまた会いましょう兵士諸君、女王様にアカリ殿。そして、マヤト殿! 私は貴方を諦めません、絶対に仲間になって見せますからね」
そう言いながら、王国騎士長は城から完全に姿を消した。
追いかける兵士も複数人見られたが、あいつを捕まえる事は難しいだろう。
ひとまず、諦めるほかない。




