第五十五話②
とりあえず……逃げるのが最適か?
いや、そんな事が出来れば苦労はしない。
流石王国騎士長と言うべきか、魔法だとかは関係なく力が強い。逃げる余地など微塵もない程に体を締め上げられており、少し動けば骨を折られてしまいそうになってしまっている。
「お前は交渉が下手だな…ここで俺を拘束したとしても、ここで俺から仲間にするといった言質を取ったとしても、その後何処かのタイミングで俺は逃げればいい話だ」
「それもそうですね。だから、私に2度と逆らえないように、屈服させる他考えられないんです」
そう言いながら、俺の頭を掴んで自身の顔にグッと近づける。
俺を見つめるその視線は何処か楽しげで、少し蕩けたような表情を浮かべている。
前から理解していた事だが間違いない。
コイツは生粋のサディストだ。
俺の事を屈服させたいだとか、俺に屈辱を与える事に対して、妙にこだわりを見せている。
他に交渉を持ちかける手段はあるだろうに、他の手段を選ばず、ただひたすらに力で捻じ伏せようとするその姿を見てそう確信したのだ。
あまりに面倒だ。と言うよりも本当に体にダメージを負わせられそうになってきた。
何か方法は……逃げ出す事じゃない、コイツを諦めさせる方法を…いや、そもそもパンプキンの居場所すら聞けていないじゃないか。
俺は頭の中は焦りで一杯なっていった。
「そこまでです、王国騎士長!」
影に光が差し込むように、女王が勇ましい姿でこの場に訪れた。後ろには数えきれない程、多くの兵を従えており、ズラリとこの部屋に入ってくる。
だが何故だ。この場所に俺たちがいる確信はないだろうに、どうしてこの場にいる事を見据えていたかのように、あそこまでの兵を連れてきたんだ。
「アンタが遅いから私が呼んであげたのよ。全く……感謝しなさいよ」
アカリが眉間に皺を寄せながら、俺にそう告げてきた。どう言うことかと頭を悩ませながら、アカリに問いかける。
「どうやって……お前、ずっとこの部屋にいたんじゃ……」
「アンタが魔法を使用できるようになっからね。私が貴方を通して、女王様に連絡したのよ。この場にいるから、助けて下さいって」
兵がこの場に来たからといって、王国騎士長を抑える事は叶わないのだ。つまり何の意味も持たないといってもいい。
だが、この場に女王を呼んだのは、最適な判断と言える。
女王は腕力ではなく、権力を有している。
流石の王国騎士長も、彼女の前では好き勝手動けない筈だ。




