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第五十四話②

「マヤト、やり過ぎちゃダメよ」

「そんな事分かっているが…少し手間が掛かるな…」


 俺は王国騎士長から距離をとりながら、ゆっくりと様子を伺い、攻めの機会を待つ。


 一方の王国騎士長は、冷静な態度を見せながら俺の事を視線で追っていた。


 この落ち着きようは、今まで潜り抜けてきた戦場で培われたものなのだろう。いくら変態とはいえ、やはりそこの実力は本物のようだ。


 俺が今この場で使用する魔法の威力は限られている。

 アカリに攻撃を当ててはいけない。城を破壊してはいけない。王国騎士長を殺めてはいけない、王国騎士長に近づき過ぎてはいけない。


 それ程の高い威力を出してはいけないものの、かと言って王国騎士長を戦闘不能に出来るほどの威力でないといけないのだ。


 難しい。簡単なようで非常に難しいものだ。

 一応、存在するには存在した筈だ、そのような条件に一致するような、確か敵を拘束すると言った魔法が。


 だが高威力かつ派手な魔法ばかりを記憶に叩き込んでいた俺は、それらの魔法を覚えるのを後回しにしていた。

 薄く覚えてはいるが、仮に発動出来ずに隙を作って仕舞えば、その隙に俺は王国騎士長に一本取られてしまうだろう。


 そうなったとしても、俺の魔法があれば先ず負けるはずがないのだが、だからと言って俺は、奴相手に不覚などは取りたくない。

 圧倒的な勝利でないと、奴を諦めさせることが出来ないと思うからだ。



「様子を伺うばかりでつまらない戦い方ですね。それで本当に私を倒せるとでも?」


 鼻で笑って見せながら、王国騎士長は俺を煽るような素振りばかりを繰り返す。

 これは俺を挑発して、懐に誘い込もうとしているのだ。魂胆などわかっている。わかりきっているのだ。


 だが、それでも。

 

「そこまで言うのなら…直ぐに終わらせてやる」

「馬鹿ね…」


 俺は遂に我慢の限界を迎えて、王国騎士長の元へ攻撃を開始させた。

 作戦はまだ決まりきっていない。だが、コイツに一泡吹かせてやらないと気が済まなくなったのだ。


 そんな怒りに身を任せた行動に、アカリはため息を吐きながら様子を伺う。

 王国騎士長は、自身の挑発に乗ってきてくれた事が嬉しかったか、不気味な笑みを浮かべながら俺の攻撃に備えるように剣を構えた。

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