第五十四話①
「そうですか……思っていたよりも、仲が宜しいのですね」
「仲は良くないわよ」
それには二つ返事で否定するのかと思いつつも、あまり悪い気分にはならずに様子を伺う。
「うーん……でも困りましたね。ここでマヤト殿を手放して仕舞えば、一生後悔しそうですし……やはり、お2人の旅について行ってはいけませんか?」
「それは嫌よ。貴方、随分と不気味だし」
「アカリ殿も……マヤト殿と変わらず言ってくれますね……」
王国騎士長はそのような事を口にしながら、ゆっくりと腰に背負った剣を取り出した。
鋭利に光る刃をアカリに突きつけながら、睨むようにしてこう告げる。
「騎士として、このような事はやりたくなかったのですがね……。脅させていただきます」
「脅す? 私を? こんな剣一つで、大きく出たものね」
アカリは臆する様子を見せる事なく、軽く刃に触れて、脅しなど無意味だというように強気な態度を見せる。
「1秒です。それだけあれば、私は貴方の首を落とすことが出来ます」
「それならそうすればいいじゃない。ただ、マヤトの仲間である私を殺した場合、マヤトが貴方に心を開く事は永遠に無くなるでしょうけど」
「心を開いて欲しいだなんて思っていませんとも。何も家族や友達になろうと言っているのではないのです。私は協力関係である、『仲間』になりたいだけなのですから」
そう言ったところで、王国騎士長はグッと剣をアカリの額にまで近づけた。もう少しで刃先が当たりそうになっているのを見て、俺はようやく動き始めることにした。
縛られたロープを魔法で燃やし、足枷を爆発させる。
それ気がついた2人は、こちらに慌てた様子で視線を向けてきた。
「もういい。そこまでだ馬鹿女」
「口を開いてはいけないと言ったはずですが……勝手に動くなんて持っての他ですよ」
最初こそ動揺は見せていたが、直ぐに冷静さを取り戻し、俺にそのような事を口にしてくる。
「こんなシリアスな展開を、俺は望んでいないんだ。前半はコメディのようで楽しめたが、もういい。お前をこの場で仕留めてやるとしよう」
「貴方が、私をですか? 笑わせますね……貴方は人を殺せませんよ。見殺しは出来ても、自ら手を汚すような真似は、決して出来やしません」
そう言いながら、偉そうな態度を向けてくる王国騎士長に、俺はゆっくりと近づきながら、睨みを効かせた。




